この胸が痛むのは
「さすがは王弟殿下だね、リヨンのメゾンで注文するおつもりだったんだ」

ドレスを購入する為だけに、リヨンまで?
王族の感覚は理解できないなとノイエは思った。

そんなひとに対して、出任せとは言え、
『私がデビュタントの用意をします』と、言ってしまったノイエには教えますと、アグネスは話した。


「ネネの為にバロウズまで来てくださると仰ってくださいましたし、ネネはご報告させていただきました」 

「それ、もう言わないで……」

ノイエは両耳を塞いで俯いた。
思い出したくもない、若さゆえの過ち。


『勝手な話もするけれど、とりあえず黙って俺の横で聞いてて』
 
事前にそう告げたからか、何度も殿下と祖母の前で『ネネ』を連発されてもアグネスは黙っていたが。
ここでそれを持ち出されてやり返されるとは。

今更だけど、あれは寿命が縮まった。
一体何回『ネネ』と、言ったかな。
言う度に、殿下からは冷気が発生していた。 


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