この胸が痛むのは
自分でも、自分があまり社交的でないことは自覚していたから、ここはひとつ直接に本人を誘ってみようかと考えたのだ。


引きこもりの変人の息子の久々の晴れ姿に、彼の母は狂喜乱舞の一歩手前の、とにかく大騒ぎだった。


「やはりミハン、貴方まだまだいけるわ!
 希望は捨ててはいけないわ!」



まだまだいける、とは。
希望は捨てては、とは。


母の言わんとしていることは充分わかっていたが。
それには応えられそうもない。
ストロノーヴァ公爵家のミハンは変人。
もうそれでいいじゃないか。


いつまでも、今でも。
亡くなった恋人を忘れない男。
そうなることをアドリアナが最後に願ったのなら。


久し振りに社交界に顔を出したミハンには、次々と声がかけられた。

彼女が亡くなった時、遺された遺書に綴られた
ミハンとの愛の思い出を、そんなことは有り得ないと、彼女の家族に証言しようとしてくれていた友人達だった。
それを断ったのはミハンだったのに、彼等は今でも友人だと扱ってくれる。


今度は昼食会ででも、皆で集まろうと誘われて、ミハンは曖昧に微笑んだ。
友人達はそれを見て気付く。

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