この胸が痛むのは
「……こちらでずっと、私の独り言を聞いておられたのですか?」

「誤解なきように説明させていただきますと、
先に私が休んでいた裏に、レディがいらっしゃって、色々と可愛い事をひとりでお話になっていたんですよ」

「か、可愛い?」

可愛い、なんて。
それは私の容姿の事ではなく、話していた内容についてなのに。
家族や親族以外の男性から面と向かって、その言葉を言われたのは初めてで、胸の鼓動が高鳴るのを抑えられませんでした。


「はい、背中越しで聞かせていただいていて、
貴女が立ち去るまでこのまま、ここで休んで
いようかと思っていたのです。
 けれどお困りの様でしたから、何かお手伝い
出来ないかと、声を掛けさせていただいたのです」

レディ、と呼び掛けられたのも初めてでした。
これは現実の事なのでしょうか?
私のような取るに足りない小娘に、丁寧な言葉で恭しく扱ってくれる若く美しい男性が現れるなんて。


「名乗りもしない者など信用出来ないでしょうね?
 失礼致しました。
 私は……フォードと、申します」

「フォード様?
 私はスローン侯爵が次女の……」


それが私、アグネス・スローンと、アシュフォード第3王子殿下との出会いでございました。

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