逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~

「お前さ、もっと自分の事を見てやれば? 確かにショックな過去があるだろうけど。その過去ばかり見て、自分が本当に何がしたいのかを分かってあげろよ。こんな事を繰り返して、セックスと金ばかり追いかけたってあんたが本当に求める幸せが手に入るわけじゃないと思うぜ」
 
 それだけ言うと純也は去ってい行った。

「ちょっと、待ちなさいよ! 」
 
 逆上した彩は、鞄からナイフを取り出した。
 そして、そのまま純也の背中めがけて突進して行った。

 が…。

 ガシッと、ナイフが刺さる寸前に純也に取り押さえられた。

 ガツンと、手首を叩かれるとナイフが床に落ちた。
 
 痛そうに手首を押さえて彩は純也を睨んだ。

 床に落ちたナイフを見た純也は、何となく胸がズキンと痛んだのを感じた。

 この痛みは…寂しさと憎しみか?
 だが…ほんとに殺したいのはきっと、自分のことだろうな…。
 
 睨んでいる彩の目が、悔しそうに揺れているのを見ると、純也は小さく笑った。

「もうやめろ! これ以上罪を重ねるな。…お前が望むなら、俺…お前の弁護についてやるから」
「はぁ? 何言っているの? 」
「自首しろって言っているんだ。俺、面倒だから国選弁護士しか請け負ってないんだ。被告人の弁護なら得意だから」
「私に自首しろって言うの? 私は何も悪くないのに? 」
「ああ、お前は何も悪くないよ。きっと、お前が過去を生きているだけなんだろうな」

 過去を生きている?
 茫然となった彩を見て、純也はそれ以上何も言わずに去って行った。

 悔しそうな憎しみいっぱいの目をしていた彩だが、急につきものが落ちた様な顔に変わって行った。
 
「過去を生きている? …私が…」

 力なくその場に崩れ落ちた彩は、茫然と天井を見上げていた。

 
 ホテルを出て来た純也は電話をかけた。
「あ、麗香? 多分だけど、あいつ自首してくると思うぜ。俺の彼女を引き殺した事、自ら白状してきた。…ああ…なんとなくだが、あいつ結構答えてたから…。そうゆう事だから、後は頼むわ」

 電話を切った純也はフッとため息をついた。



 そのまま駅前通りまで歩いてきた純也。

 再び時計台まで歩いてきた純也は立ち止まり、ふと空を見上げた。

「変だよな。…大切な人を殺されたのに、なんで俺。あいつの気持ちが何となくわかるんだろう…」
 
 小さく笑った純也は再び歩き出した。

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