逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~
歩道橋の下は車が行き交っている。
その様子をチラッと横目で見た優衣里。
「…もう嘘は結構です。…貴方は、結婚しても私に何一つ夫婦としての営みすらしてこないじゃないですか」
「なに? 」
メガネの奥から文彦を睨みつけた優衣里は、口元でニヤッと笑った。
「貴方のご両親に、孫はいつ? 妊娠はまだ? そう聞かれるたびに、我慢していました。とても言えませんよね? 貴方が一度も、私を抱いてくれた事はないと…」
「何言っているんだ! それは、忙しくて仕方なかった事じゃないか。もう仕事も落ち着いたんだ、これからだろう? 」
「これから? この後が、あると思っているのですか? 」
ん? と、文彦が見ていると。
優衣里は歩道橋の策に手をかけた。
「…そんなに死んでほしいなら、お望み通り死にますよ…」
「お、おい。ちょっと落ち着け」
まさか、自殺するつもりじゃないだろうな?
自殺なんてされたら、保険金は降りないじゃないか!
「文彦さん、1つだけ教えて下さい」
「なんだ? なんでも答えるぞ」
「…私の事を、少しでも愛してくれていましたか? 」
「も、もちろんだ! だから、結婚したんじゃないか」
焦りと動揺の目で答えた文彦を見て、優衣里は悲しげな目を浮かべた。
「文彦さん、貴方は一生罪悪感に駆られて生きて行けばいい…。たとえ大金を手に入れても、私を殺したお金…。そして、陰で裏切っていた親友のふりをしていた彩と一緒に地獄へ落ちればいいでしょう…」
悲し気な笑み浮かべたまま、優衣里はそのまま身を乗り出した…。
「待て! 」
焦って手を伸ばした文彦だったが、その手は届かず優衣里はそのまま真っ逆さまに転落して行った!
走って来たトラックへと、転落して行った優衣里はそのまま勢いよくトラックに衝突した!
大きな衝撃音が響き、急ブレーキ音が鳴り響いた。
驚いた通行人が立ち止まり振り向く中、歩道橋を見上げると、まるで文彦が突き落としたように見える風景だった。
手を伸ばしたまま文彦はその場に固まっていた。
「わぁ…あの人、あの女性を突き落としたみたい」
「なんか言い争っていたみたいだから」
「すごい形相で、追いかけて来ていたよね」
目撃者がそう呟く中、文彦は信じられない表情のままなすすべもなかった。
歩道橋の下には、血まみれになった優衣里が倒れている。