あるホラーな再恋噺

展の章/○○ホテルにて

○○ホテルにて①



それは、たった今までバリアのように覆われていた、靄のカーテンがスーッとまくられた感覚だった。
同窓会の会場内は、今さっきまでの空間を呑み込み、と同時に淫らな興じごとにふけっていた3人は、いち早くノブオを置いてテーブルから”移動”していた。


そして3Mほど離れた右隣りでは、水原ユキノが2人の”男子”と何やらお話し中であった。


”今のは何だったんだ??夢でも見ていたのか、オレ…。いや、すでに正常な神経を失ってるから、妄想の世界に自分で浸かっていただけなんだろう。現実に背を向けて…。時間の感覚も失っていたし…。見てみろ、水原はフツーに誰かさんとしゃべってるし…”


まさに夢から現実に戻り(?)、すべてを失った、もう後のない男には、逃げることなど出来ない”現実”がズシリとのしかかり、あぶら汗が体中から湧いてきた…。


”ひとときのトキメキは霧のように消え去った。あとのオレを待ち受けているのは言うまでもない。地獄オンリーだ。生きてても地獄、死んでもたぶん地獄だろうよ…”


華やかな同窓会会場は、彼にとって一転、暗黒の世界と化した。


***


「では、皆さん…、ここで最後に…」


司会者の締めの声が会場内に響くと、あちこちで盛り上がっていた談笑は一旦休止し、皆、壇上の司会者に顔を向けている…。


中原ノブオも、弾むような同窓生二人の名調子を、暗澹たる心で聞き流していた…。
すると、左耳に透き通るような声が届いた。


「…中原くん、じゃあ、”さっき言った”神社の下で待ってるから」


”水原か…⁉”


彼が”その判断”に至り、言葉を返そうと思った時には、既に彼女は背中を向けて小走りし、5、6M先にいた。


”神社…?ああ…、ここ来る途中にあったな。確か…”


それは、街中で”あそこだけ”が鬱蒼として別次元の趣を発する、”何とか神社”…。
という認識を、ノブオは泥酔寸前状態の頭の中に植え付けた。


***


”何が何だかわかんなくなってきたが、ここを出たら行ってみよう。もしかすると、そこで水原とさっきの3人が皆来てるのかも知れないし…”


ノブオはあらぬ期待はしないようにと、自身に言い聞かせながらも、まさしく最後の最後は彼女たちで自分自身を埋めようと心に誓った。


”でもオレ…、水原と言葉を交わしたかな…。確かに康子ちゃんと少し離れた位置でこっちのテーブルにはいたけど…。ふう…、何しろかなり酔っていたところに、3人と思わぬ艶めかしい局面になって、その間の記憶があいまいなんだ…”


自殺という絶望の決断に達した壮年の男の心情とは、かくも現実と妄想の世界を簡単に行き来できるものなのか…。


***


間もなく閉会となった会場を、ノブオはそそくさと去り、ユキノに指定(?)された神社に向かった。


急ぎ足でおよそ20分…。
ノブオはその神社は辿り着いた。


”ここって…❓”


ノブオは一瞬、脳裏をかすめた。
もう自分はあの世に引っ張られているのではないか…、と…。



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