風と共に去らなかった夫になぜか溺愛されています
 この世界がロマンス小説の『風と共に去り、凪とともに散る』であることに気付いたのは、グロリアが十歳になった時だった。突然、頭の中にいろんな記憶が流れてきて、この世界について、いやこの小説について、を思い出した。
 このハチリア王国は隣国のシチノル王国と国境の鉱山を巡ってきな臭い小競り合いを長年続けている。このハチリア王国の第一王女であるマリッセは、王立騎士団の団長であり、公爵家の長男でバセク・ガトンと結婚をするのだが、その隣国との小競り合いが悪化してしまったことで、バセクは騎士として戦地へ赴く。そこで、愛する夫が名誉ある死を迎えてしまった事を耳にしたマリッセは、身籠った子を流産させてしまう。
 それでもバセクを忘れることのできないマリッセは、ガトン家に身を寄せているのだが、このガトン家の者からは執拗な嫌がらせ、つまり追い出しを受けていた。それに耐えたマリッセは二年後にバセクと再会し……という、そこから二人の熱くて濃厚な世界が広がるのだが。

 そしてグロリアは、何を隠そうバセクの妹。嫁いできたマリッセをいじめ倒す役柄。マリッセの幸せを願いながらその小説の世界に浸っていたグロリアの中の人は、自身がグロリアに転生してしまったことに衝撃を受けた。だが、考え方によってはある意味チャンス。兄バセクとマリッセを離れ離れにさせないために。そして、マリッセが嫌がらせを受けないようにするために。
 って、いじめるのはお前だよ、と自分自身にツッコミをいれるグロリア。

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