Cherry Blossoms〜黒に咲く紅〜
突然のさよなら
榎本総合病院に本田凌(ほんだりょう)という名前で潜入捜査している公安警察・九条桜士(くじょうおうし)は、その日同じ救急科で救急救命医として働く四月一日一花(わたぬきいちか)とウガンダ出身のヨハン・ファジルと共にドクターカーに乗り込み、駅に向かっていた。駅の近くの道路で何台もの車が絡む事故が発生したためだ。

「これは……」

現場に到着した桜士は足を止める。そこには、「地獄」とも言える光景が広がっていた。

「痛い……!痛いよぉぉぉ!」

「誰か助けて!」

「救急車、救急車を早く!」

怪我を負った人たちが血を流し、グッタリと動かない人もいれば、痛みで泣いている人もいる。野次馬が集まり、道路は騒ついてうるさいくらいだ。このような光景は、病院で実習を受けた時には当然見ることがなく、桜士はゴクリと喉を鳴らす。

「ビビってんじゃねぇぞ!!」

ヨハンに乱暴に肩を叩かれ、桜士は咄嗟に「ビビってませんよ」と返す。好きな人がいる前で、弱気になりたくなどない。
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