もう一度あなたに恋したときの処方箋


***


その日、流通事業本部のヨーロッパ担当部署は険悪な雰囲気だった。
新しいプロジェクトのために急遽ロンドンから帰国した次長が、なんと部長を睨みつけているのだ。

「高木君……」

「岡田部長、私が帰国するまでに人材を見つけておくって言ってませんでした?」

「いや~、すまない。いると思っていたんだけど、アラビア語担当だったんだ」
「へえ~かなり違いますよね~」

「そんな不機嫌な顔しないでくれる?」

どっちが上司なのかわからない高木の態度に、周囲のメンバーは騒めいている。
ふくよかで温厚な岡田部長に対し、ふてぶてしい眼差しを向けているのは高木憲一次長だ。

スポーツマンらしく背の高い筋肉質な体型。
クールで冷淡な性格も、『知的』と言いかえれば恰好よく聞こえる
その上、若手の有望株でロンドン帰りの独身とくるから女子社員の注目度ナンバーワンだ。

憲一は学歴や家柄もいいし、今は決まったデート相手はいないらしい。
女子社員たちは早くも彼を射止めようと目の色変えている……との噂がたっていた。



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