陰黒のプシュケ

よみがえった記憶

翌朝…、いつも通り自宅を出て学校に向かうバスの中で、穂里恵の探していた答えは意外にもあっさりと湧き上がった。

”あの光り…、間違いない!額縁だよ!あそこの額縁のガラスが陽射しに反射したあのピカッってやつだ…”

彼女がふと思い起こしたその何気ない光景…。
それはある意味、彼女にとって見慣れたシーンでもあった。
さらにそれは、とても懐かしい思い出でもあったのだ。

”おじいちゃん…”

***

「…穂里恵、どうだ?昼間見りゃあ、あの額の写真、怖くないだろう?」

「うん…。でも、夜はコワいよ。やっぱり、お二階でねたいよ、おじいちゃん」

「はは…、じゃあ、今夜はおじいちゃんとおばあちゃんが一緒に寝るから。いいかい、あの居間のな、鴨居に掛けてある額縁の写真は、この家の先祖代々でな。皆、20歳を迎えた初夏に撮った記念写真なんだ」

「…」

「…この末松家は昔から、子や孫を守ることを大切に考えていてな…。ひとつは何か困った時にはまとまったお金を渡せるように、現金で用意しているんだ。もうひとつは、かわいい孫娘の穂里恵とかが何かの災いにあった時、死んだご先祖たちが念を送って、助けてあげることなんだよ」

「それって、交通事故に遭わないようにとかってこと…?」

「ハハハ…、まあ、そんなところだが、肝心なのは、ご先祖さんに穂里恵のことを忘れないでいてもらうことなんだよ。だから、ここへ泊りに来た時には、ずっと14枚の額縁が飾ってある1階の居間で寝てもらってたんだ。今回は、穂里恵が初めて一人でおじいちゃんとおばあちゃんとこに泊りがけで遊びに来たから、まあ、夜に一人じゃ怖いだろうし、一緒にな」

これは、穂里恵が小学校2年に上がった夏休み、群馬にあった父方の実家へ3泊で遊びに行ったときの祖父幸助との会話だった。

なぜかこの朝、穂里恵はスーッと降り立ったようにこの記憶がよみがえったのだ。
驚くほど、鮮明に…。

***

穂里恵はこれまで、父の実樹雄からも、群馬の額縁に飾られた末松家の先祖の話を何度か聞いていた。

「…じゃあ、あの14枚の額縁に入っていた写真のご先祖様は、みんな全員で力を合わせて、何かあった時、私達末松家の子孫を災いから守ってあげようって誓ってから死んでくんだ…」

「ああ。実際にお父さんなんか、中学の時、酒酔い運転していた車に自転車乗ってて跳ねられてな…。その車、通学路の山道をものすごいスピード出して走ってたんで、オレはがけ下に自転車ごと突き落とされた。だが、崖ののり面に植わってた大木の太い枝にズボンのベルトが引っかかって、かすり傷ひとつで助かってさ。まさに奇跡だったと思う」

「でも、それ…、ご先祖様が助けてくれたってなんでわかったの?」

「うーん…、一瞬だったんで、お父さんの命を末松のご先祖が救ってくれたっていう確信はないよ。ただ、なんとなく、崖に転落するわずかの瞬間、額縁のガラスが光った気がしたって、そんな程度だった。でもね、そのあとのことで、ああ、やっぱり先祖が見ててくれたんだって…。そんな出来事はあった」

「なんなの、それって?」

中学に入った年の夏休み前…、部活とかで群馬へは泊まりにいけないと父に申し出た際、父の実樹雄が何とか年に数回はあの額縁の部屋に泊まるようにと、強く勧めていた経緯があった。

実樹雄は絵里との結婚の際に、ある事情によって広石家に婿入りしていた。
それだけに、自分の子供たちには何としても生家である末松家の先祖からの守護を受けさせたいという、特別のこだわりがあったのだろう。

この時…、穂里恵は父から実体験を告白されたのだったが…、父のその後の告白話は衝撃的なものであった…。



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