陰黒のプシュケ

不穏なる陰の流気

”うっ…、なに?四辺様の方、なんか変だ!”

生馬月美はすぐにその異様な気流を感知した。

「つっきー、どうしたー?早くおいでよ」

陰沼の湖畔では、すでにボートへ乗り込んだクラスメートの初枝と波子、それに初枝の兄マサトが月美に手を振って呼んでいた。

「ああ、すぐ行くよ…」

とりあえず月美は、小走りしてボートに乗り込んだのだが…。

***

「あれ…、どした?つっきー、具合でも悪いの?」

マサトがボートを漕ぎだして数分…、月美は気分が悪くなって猛烈な吐き気を催していた。

”ゲーッ…”

「…ごめんね。汚いとこ見せちゃって…」

「アハハ…、いいって。ねえ、ナミ…」

「う…、うん。でも、つっきー、さっきまで全然平気だったじゃん。どうしたの、急に…」

「あ…、実は…」

月美はのどまで出かかっていた。

”ここ、いつもと違う。何かとても強い情念が漂ってる。集団で…”

しかしいきなりこんなタワゴトを口にしたら、不気味がられて気まずくなる…、そんな杞憂から口には出せなかった。
ところがだった。

***

「月美ちゃん、何か感じたんじゃないのか、霊気とか…」

それはいきなりだった。
初枝ら3人より2コ上の大学生であるマサトが、両手でオールを漕ぎながらそう語りかけると、初枝と波子は口をぽっかりと開けて互いに顔を見合っている。

一方、月美の方は、ズバリ胸の内を言い当てられ、その場でこっくりと無言でうなずいてしまった…。

「やっぱりか…。つっきーちゃんは霊感が強いみたいだね」

「ちょっとーー、アニキも何か見えるとか感じてる訳⁈」

初枝は身を乗り出して、突っかかるように兄に詰問した。

「いや、オレはただ、今日の陰沼、いつもと違う感じかなって程度だったんだ。でも、彼女…、ココへ来てすぐ様子が変わったのわかったから…。ひょっとしてと思ってさ」

そういうことだったのだが、月美はこの際だからという気になって、感じたままを3人に告白した。

***

「えー⁉…じゃあ、あの四辺さまから何かが吐き出されてるっていうの、つっきー?」

「うん…、気味悪がられると思うけど、なんか、気流みたいな…。黄色いオーブって感じかな」

「やだー!もうやめてよ、つっきー」

「ハハハ…。まあ、この陰沼が何かといわく付きだってのは、地元に住んでる人間ならみんなある程度は周知だしな。そもそもさ、この沼底には身を投げた何百って死体が巨大な藻に絡まって、浮かんできてないらしーから。オーブがぶんぶん飛んでても不思議ないだろ」

「怖いこと言わないでよ、アニキー!」

「ねえ、なんか私も気味悪くなっちゃった。今日はもう引き返さない?」

初枝と波子はマジに怖がっていたため、マサトは苦笑いしながら湖畔へとUターンした。






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