愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました

プロローグ

 隣にあるはずの温もりを求めるように無意識に手を伸ばし、空を掴んだ私はうっすらと目を見開いた。明かりの落とされた部屋で青白い光だけが天井に反射し、寝返りを打って体の向きを変える。

 八月半ば、連日の熱帯夜とニュースでしていたが、エアコンが効いているこの部屋は逆に寒いくらいに感じた。

 目を瞬かせそちらを見ると、すぐそばにいたはずの彼は眼鏡をかけて怖い顔でパソコン画面を睨みつけていた。

 いつも温和で優しく、笑顔が柔らかい彼からは想像もつかない。冷たくて険しい表情に胸が締めつけられる。自分に向けられたわけでもないのに、まるで知らない人みたいだ。 

 なにをそんな目で見ているの? 仕事? それとも……。

『絶対に許せない相手がいるんだ』

 初めて会ったとき、他の友人たちと雑談を楽しむ中で、彼はそんな発言をしていた。あのときの一瞬だけ見せた穏やかな表情に相容れない冷酷な瞳が、目に焼きついて離れない。

 だからか、今も声をかけたいのにできない。瞬きひとつできずにいたら、不意にこちらを向いた彼と視線が交わった。

「起こしたか?」

 大きく心臓が跳ねたのとほぼ同時に尋ねられ、硬直する。

愛理(あいり)?」

 名前を呼ばれ小さく首を横に振ると、紘人(ひろと)は眼鏡をはずしゆっくりと近づいてきた。その表情はいつもの彼のもので、ホッと胸を撫で下ろす。

 ベッドの端に腰を下ろした紘人を見上げる形になり、彼は私のオリーブグレージュの髪にそっと指を通した。
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