愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
 父との関係だけで言えば私は社長令嬢になるのかもしれない。けれど両親が離婚して私は柏木(かしわぎ)から母の旧姓である土本になり、いい意味で父の立場や会社に縛られることはなかった。それがよかったのかは今となっては迷うところだ。

 両親が離婚してからも、それなりに父との交流はあった。忙しい父だが面会で私と会うときには欠かさず時間を作ってくれ、養育費も十分の支払いがあったらしく、おかげで高校や大学などの進学先は希望通りに決められた。父には感謝している。

 そんな父が病に倒れたのが、三か月ほど前の十二月半ば。長年の不養生が祟ってか復職が難しいとまで宣告され、会社は今いろいろと揺れているらしい。

 そこらへんの事情はあまり詳しくないが、そんな中で私に結婚を申し込んでくれたのは父の秘書をしている崎本(しげる)さんだった。私より十歳年上だが、父のお見舞いで何度か顔を合わせ、真紘の存在も認めてくれている。

『力を合わせて社長の……お父さまの会社を守りましょう』

 情熱的に言われたものの、私にとって父の会社に対する愛着はそれほどない。でも、父を思うとKMシステムズをなくしてもいいとまでは割り切れないのも事実だ。

 父は私と崎本さんの結婚をよく思っておらず嫌そうな顔をされ何度か考え直すように言われた。それを跳ねのけるように崎本さんが私を強く望んでくれたのだ。父としては、おそらく私が会社に関わるのが気に入らないのだろう。父の、社長の娘としては不十分なんだ。

 今日は崎本さんの提案で、社長の娘である私との婚約を理事や役員などの重役たちに公表する段取りになっていた。この発表はきっと皆の士気を高める、そう言われて。
< 7 / 123 >

この作品をシェア

pagetop