愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
「ええ。この期に及んで、KMシステムズの過去の不正を明かして、社長を糾弾するのをやめるって言うものですから」

 続けられた江藤さんの話に、さっと血の気が引く。どうして彼女がその件を知っているのか。そんな私の反応に、江藤さんは冷たい目を向けてきた。

「五十嵐さんだけではなく、当時は社員や外注に対する扱いもひどかったんです。ここまで会社が大きくなったのはそんな犠牲があったからなんですよ、社長令嬢さん」

 軽蔑を含んだ声と眼差しに、足下がふらつきそうになる。ベビーカーのハンドルを握り体を支えるが、言葉が出ない。

「ちなみに……五十嵐さんにKMシステムズの社長の娘さんと結婚するよう勧めたのは私なんです」

「え?」

 ところが予想を上回る江藤さんから明かされた事実に反射的に声が漏れた。リップが塗られた艶のある彼女の唇が弧を描く。

「どういう根回しか、柏木社長が倒れ五十嵐さんがKMシステムズの新社長に就任すると聞いたときにね。あなたの存在を伝えていたんです。前社長の娘と結婚すれば彼を柏木社長の後継者だと認め、受け入れる人も多いでしょうから」

 彼女の言い分には聞き覚えがあった。

『わかりませんか? 社長を一番そばで支えてきた私が後継者になるため、周りを納得させるには、社長の娘であるあなたとの結婚が必要だったんです』

 崎本さんに結婚を取りやめようと言われたときだ。彼にとって私との結婚は、父の後釜に収まるためのもので……。

 紘人も同じだった? 私じゃなくても別の誰かでも柏木清志の娘だったら結婚していた?
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