麻衣ロード、そのイカレた軌跡❶/咆哮
その8
麻衣



相馬会長との会食は、私にとっては滅多にない、楽しい珠玉の時間となった

その後も、私たちはいろんな話をした

会長が若い頃戦争へ行った話、私の学校の話…

「わっはっは…」「キャハハハ」と、時折大きな笑い声も交えて

私たちのテーブルから離れたところで待機している剣崎さんたちには、話の内容までは聞き取れていないと思う

でも、その和やかな雰囲気は伝わるようで、みんなも談笑したりして、今日はリラックスモードだ


...



相馬さん、今、好きな人はいないのかと聞いてきたわ

私は、今、好きになりかけてる人はいると答えた

その人のこと、どんどん好きになっていく気がするって…

たぶん、目なんかを輝かせて言ってたんじゃないかな

相馬さんはフルーツ片手に、ニコニコしながら聞いてたよ、それでさ…

「よし、俺がお前みたいな女とやっていけるような奴か、値踏みしてやるか」だって…

無理だよ、だってその人、今目の前にいるあなただもん

私はクスッと笑って、”彼”の反応を伺った

あっちも笑ってるし…

それはどこか可愛い、いい笑顔だった

この人、気づいているのかな…、私の気持ちに


...



食事も終わりに近づき、私はさりげなく聞いた

「会長は人生の目的とかって、どんなことだったんですか?ケモノのようにギラギラして生きるっていうのは、わかったんですけど。具体的なそういうのって…」

会長は咥えていたタバコを手にしてから、こう言った

「具体的にはないな。なかったよ。だがよ、”欲望の階段を上るような人生”は送らないって気持ちはな、常に持って生きてきた。そんな一生、ゴメンだ。まあ、この世界でこの立場からすれば、矛盾してるようだが、実際、そうなんだ。今の立場は言ってみりゃ、成り行きだ…」

この言葉も深いかな…

「今日は本当に楽しかったです。空ぶかし気味だった私のエンジン、おかげで全開になりました。遠慮なくやらせてもらいます」

「ああ、ガンガン行け。また、会いに来いな、麻衣」


...


梅雨入り前の青空の下、イカレた者同士の真昼の宴は終わった

心も頭も覚醒された私には、すでにこれからの”絵”が、明確に描かれていた

そこには、昨日までの”迷い”は消え去っていた





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