彩国恋花伝〜白き花を、麗しき紅い華に捧ぐ〜
 小一時間ほどで、チヌが部屋に戻ってきた。

「それで、どうだった?」

 座ったまま姿勢を正してから声を掛けると、いつもと変わらない姿勢でチヌが寄り添ってきた。

「あのお触れ書きに書かれてあることは、どうやら(まこと)のようです」

 低い声で、冷静に説明が始まる……。

「えっ、じゃあ、全員、罪人になっちゃうの! そんなぁ……」

「ヨナお嬢様! これはきっと罠です。国王から信頼され、(たみ)達からの支持も厚いホン家を妬む者は多数おります」

「えっ、誰がそんなことを? あっ、第二夫人?」

「それは、分かりません。ただ、ホン家が謀反だなんて……、そんなことを信じる者は一人とておりません。王様も、どうかしております」

「そっか、国王が出した処分なんだ……。あいつ、最近いい奴だと思ってたのに、やっぱり、あの手の顔は信用できないな」

「処分を下したのは朝廷です。王様は、認めざるおえなかったのです。確かな証人が居るらしく……。ですが、どうしてお守り下さらなかったのか……」

 チヌが、悔しそうに泣いている。
 
(国王がどうにもできないなんて、そんなことある? 王命だ! って、言い切ればいいじゃない! 全く、頼りにならない奴だ。せっかく上昇してたのに、国王の株、大暴落だ!)

「ヨナお嬢様! これだけは覚えておいて下さい。ホン家のお父上は、素晴らしいお方です!」

「あっ、そうなの?」

「実は、私ども一族も、身に覚えのない罪を着せられ官軍に襲撃されたのです」

「えっ、チヌの家族が?」

「家族も親族も、男共は全員殺されました。私の亭主と息子も……」

「えっ、チヌ結婚してたの?」

 一瞬、チヌが優しい顔をした。

「路頭に迷っていた私どもを救って下さったのが、ヨナお嬢様のお父上です。その時一緒だった私の親族は、今もホン家に仕えております」

(じゃあ、あの家にはチヌの親族も居たんだ……)

「お母上も、それはそれは良くして下さいました。亭主や息子の墓も作って下さり、心を癒して下さいました。そんなあたたかい方達に罪を着せるなんて、断じて許せませぬ!」

 チヌの瞳がメラメラと燃えている。
 
 私も許せない! でも、第二夫人がそこまでのこと出来る? 他にも仲間が居るっていうこと? 

(っていうか、私、どうなっちゃうのーっ?)

「チヌ〜」

 思わず、チヌの肩にもたれかかっていた。

「ヨナお嬢様、私にお任せ下さい!」

 私の髪を撫でながら、チヌは優しく微笑んだ。
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