赤を喰らう黒/短編エロティックホラー選❻

その1

その1



奥村ミツヨシはセルフのガソリンスタンドに努めている。
主なシフトの時間帯は夜間が多く、特に20時以降は一人勤務体制ってことで、奥村の勤務時間の大半は事務所内の監視画面をすべて彼がチェックしていた。

で…、ここのスタンドは、大型車の軽油専用レーンが設置されているということもあり、いわゆる常連さんが”一定の時間帯”に、”いつも通りのルーティーン”で給油するケースがすくんばくなかった。
なので、奥村の目に飛び込んでくる、そんな”なじみの風景”はいくつかあった訳で…。

だが、そんなお決まりの風景に”変化”が生じた時…、時としては奇異極まる出来事を招きよせることもあった…。


***



ある晩夏のこと…。
この夜、奥村ミツヨシは23時までの勤務だった。

”ふう…、もう21時半か…。今日は忙しかったんで、時間の経つのが早いや。…うううう~~”

各レーンの監視モニターを注視しながら、奥村は帽子をとって、大きく万歳態勢で大あくびをこいていたのだが…。

”そういえば…!今週は週明けから4連勤だけど…、この時間帯に来る例のお客さん”ら”、見てないな。なら、今夜あたりはお越しかな(苦笑)。

で…、彼の予期はほどなくして的中する。

午後9時36分…、3番レーンに大型トレーラーが進入してきた。
運転席からはすぐに、赤いポロシャツ姿の背が高く肩幅のがっちりした、”いかにも”な大型車ドライバーが運転席から降りてきた。
年は30歳後半という感じなその男性ドライバーが、給油操作にかかってると、続きざまで正面の4番レーンにはトレーラーと反対方向から大型ダンプが入ってきた。

”おお、噂をすれば何とやらだ!いつも通り、3番レーンから解除~~!”

男性ドライバーが給油口にノズルをダブル挿入したのをモニター確認した奥村は、ややおおちゃらけ気味に給油開始の解除タッチを完了させた。

一方、ダンプの運転席から降りてきたドライバーは、黒いポロシャツに身を包んだ長い髪の毛を染めた、どう見ても若い女性である!
2台の大型車は、要するに逆向きでレーンを挟んで並んでる状態になっている。
その女性ドライバーも余分な時間をおかず、手慣れた指さばきで給油操作をささっと済ませて、給油をスタートさせた。

大型車の給油量は通常100リットルを超え、普通車の給油よりかなりの時間がかかる。
なので、大概のドライバーは、本来はよくないのだが、給油ノズルはそのままにして給油中にレーン設置されているモップで窓ふきをしたり、ごみ捨てしたりを済ませるのであるが…。

今、給油中のドライバー”ら”は違った~。


***


”さー、そろそろだな。今日はどのバージョンかな❓”

奥村はモニターに向かってニヤケていた。
この次点、他の給油レーンには車が止まていなかった…。

ただ、ドライブスルー洗車は洗車中と待機車の2台が来店中だった。
ちなみに、待機中の車はタイヤ周りをブラシでゴシゴシしており、中年の男性客が車外にいた。
モニター前の奥村は、この点を、まずはしっかりチェックしていた…。

奥村は”そこ”を押さえてから、目線を大型車レーンに戻すと…。

まず、手からノズルを離したのは黒い方…、つまり女性ドライバーだった。
彼女は、ゆっくりと対面レーン、つまり3番レーンに遠回りして移動すると、ノズル2本を両手で握っている赤い方=男性ドライバーの後ろ姿に近づく。
で…!

なにやら彼に向かって言葉をかけたのか、男性ドライバーはノズルを手から離し、女性ドライバーを振り返った。
すると…。

”ポーン”と、音がしたわけではないが、給油レーン頭上5、6m の高さから映し出されるモニター画面からはそんな音感が飛びててくるかの如く躍動感で、黒の彼女は赤の彼に抱き着いちゃっていたのだ!

”おおー、今日は抱き着きバージョンか。はは…、今後のこともあるし、ちょっと回ってくるか…”

奥村は帽子をかぶって、事務所から出て行った。


***


やや小走りで、奥村はまず洗車レーンでバケツの水を入れ返し、そこから各レーンの不要レシートボックスから中のごみを回収…、大型車レーンは最後に回った。

「…こんばんわ。いつもありがとうございます~」

「どうも~」

「こんばんわ~」

奥村は2台のドライバー二人へ軽く挨拶をして、ささっとごみステーションへ移動…。
その間…、奥村へあいさつを返した赤と黒のご両人は、すでにくっついてはいなかった…!

”はは…、あの二人も心得てくれてて助かるわ。洗車レーンの待機スペースからは3,4レーン間は丸見えだから…(苦笑)”

実際、奥村は洗車を待ってる間、今と同じバージョンの絵柄を目にした予備洗浄中の中年男性客から、”ヤバいよ、あんなの。店員さん、注意しなよ!”と苦言を受けた経緯があったのだ。
ということで、奥村は顧客のプライバシーに踏み込まない範囲での自重を促すシグナルというアクションにとどめ、本人たちにも暗黙の”同意”を受けていたのだ。

”まあ、あの二人、どうやら女性の方が積極的みたいだし…。要はデカイ車でおおまかには隠れちゃってる格好になるんで、公の場でイチャイチャして刺激を感じてるってことなんだろうけど!(苦笑)”

この点については、一度、”赤の彼”がトイレに行ってる間、”お一人様”になってて給油中の彼女の方から、挨拶してきた奥村へカマかけしてきたことがあったのだ。


***


「いらっしゃいませー!こんばんわ~」

「こんばんわ~。…あのう~、店員さん…、知り合いにココみたいなセルフで働いてる子いるんで聞いたんですけど、給油してる客は中で”画面”に映ってるんですよね?」

「ええ、監視モニターには写ってますよ。あそこがカメラですわ」

奥村は3,4レーンを写している天井監視カメラを指さした。
”彼女”は、長い染めた髪を押さえながら、興味津々な眼で奥村の指がさすソコを見上げてる…。

「ああ、けっこう高いところからなのね。で…、そこに客として給油に来てる自分が映ってる映像、再生して見せてもらえますかってこと、可ですか❓」

「いえ、不可です。警察の捜査協力とか、特別な事由で申請された場合くらいですよ、例外的に見せられるのは…」

「ですよね~~。はは…」

”そういうことかい!フフ…、女性の方は確信犯ってことだわ”

当該SSの一店員って立場の奥村は、心の中でニヤケていた。

つまり、このドライバー二人のココでのルーティーンは、当該SSに勤務している奥村の胸の内で収まっていた行為という範疇内の問題で終わるはずであった…。
このまま、”いつも通りな風景”が続けば…。

ところが…!
そんな”いつもどおり”が、この日からさほど遠くなく崩れることとなる…。



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