赤を喰らう黒/短編エロティックホラー選❻

その5

その5


「お客様!」

「ああ、店員さん…、こんばんわ」

「いつもどうも…。あのう…、実は、アナタが”ピン”で給油するようになってから、レーンモニターに変なノイズと黒い影が現れてまして…。ソレ…、今日も出てました。最初は4番レーン側からで、3番レーンに向かって少しずつ、給油中のあなたに近づいて行ってるんです。それとともに、その黒い影もだんだんとはっきり映ってきた…。今日の次点では、ソレ…、髪の長い細身の女性だと確信できるくらいでした。…それで、さっきモニターでそいつが消えた場所、今自分立ってるこのあたりでして…。なので…、次はそいつ、アナタと重なります!」

奥村は一気に捲し立てた…。
それは、スタンド従業員の立場を超えたある種、深い思いから…。

赤いポロシャツのドライバーは…、軽油の給油ノズルを握りながら、奥村の目をじっと見つめながら聞いていた。
それは平静な面持ちで…。

「…」

「あの…、なので、これはココの一従業員が言っちゃあいけないことですが、次回以降は他でされた方がよろしいのかなと…。一言だけ添えさせてもらいます」

「わかりました。親切におっしゃってくれて、ありがとう!」

ここまで話した後、奥村は帽子を脱いでお辞儀した後、事務所へ戻って行った。

”自分ができるのはここまでだ。スマホで撮った映像と併せてモニターを店長に見せても、実際に何か起こらなきゃ会社側に報告もできないだろうし…”

要はここでの奥村は、”何か起こった時”の等身大な使命感と一応のアリバイつくりと言えた。
つまり、次に給油を彼がここで行えば…、そこで何かが起こるかもしれないと…。
もっとも、他のスタンドであっても、その何かが忌避できるとは限らない。

何しろあの黒い影が、死んだ黒いポロシャツの女性ドライバーであるという見当には至っていたのだ。


***


いわゆる霊現象という括りで、従事する職場の勤務時間帯を任された立場…。
それは、与えられた範疇内の精一杯な誠実に付する行為…。
そこには、顧客のある種秘め事を介した場面の目撃者たる責務も負うと。

奥村は所詮、非正規雇用の身分だしと、ドライに割切ろうとしてはいた。
だが、コトは超常現象をも含有する局面と解しており、彼は一通り去就を看取らねばならないという意思に達していた。

”出過ぎたマネかもしれないが、今度の給油でそれを見届ける!もし、あの黒い影が赤ポロのドライバーに重なるようであらば、彼を救わなくては!”

ここでの奥村には、ひと通りの推論が出来上がっていた…。

”あの黒い影はあの女性の後姿だろう…。彼女は次の給油で彼と重なった時、何か起こす…。多分やばいことを…。俺にできることはやっぱ、やらなきゃ…”

ささやかなプロ意識と人間の情…。
かくて、奥村が目したその日、その時間は来た!





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