恋人たちの疵夏ーキヅナツー

二人の雨宿り

雨やどり/その1
アキラ


「きれー」「最高ー」「感激ー」

美辞麗句を連発するが全く嫌味がない

展望公園の夜景がお気に入りのケイコちゃん

「ねえねえ、見て、あれ」とか言って腕をつかむ

そういえば今日、集まりがあったらしい

あの日、出会ったメンバーの

写真ができたから、みんなで見ようと

俺たち以外の11人が来たとか

ケイコちゃんは用があるから欠席

オレはといえば、集まり自体知らなかった

やっぱりオレは”特別参加”の男だ

...


それにしても痛快だ

残りの二人が同じ日、偶然再会した

しかも男子便所の中で

めったにある話じゃないよな

二人きりになるのはこれで3度目

なぜか、いつも体がくっつくくらいの距離

その都度、この子の妙な大人っぽさが伝わってくる

それでいて、この屈託のなさはどうだろう

...

この子を前にすると心の重荷が解放される

最初は海という場所のせいだと思ったけど

どうやらちがった

ケイコちゃん自身が夏の陽射しだったようだ

その陽射しちゃんの口にはソフトクリーム

さすがにその仕草は子供っぽい

このアンバランスさがいよいよ、良い






雨やどり/その2
ケイコ


きれいな夜景と冷たいソフトクリーム

今日集まった他の奴らに見せたいぜ

まさか同じ日にデートと知ったら絶句するだろ

バイクの後ろにも乗っかっちゃったし

さっきは便所だったけど

そういえば、アキラ兄さんとはいつも間近だな

時折、わたしの横顔まじまじと見てるんだよね

まさかアイスくっつけたか、顔に

...

私のこと大人っぽいって

ストレートに言ってくれるじゃん

うれしいよ、素直に

そうそう、アキラと二人の写真あったな

私の留守に薫たちが届けてくれた中に

今日、急いでたからよく見なかったけど

しかし、アキラにだけ知らせないって何なんだ

海で私らに声かけたのアキラじゃん

全く、ほかの5人ろくでもないわ

...


ところで、アキラは今度プロになるらしい

スゲーな、この人

失礼だがそんな風に見えないんだよね

でも、あんまりうれしくなさそう

どことなく、なんとなくだけど

ちょっと物憂げというか

そんな表情感じる

まあ、不安くらいフツーだよね

よし、私が支えになるか!

こんな小娘じゃいやがるかな?

迫ってみっかな、今日、これから

...

と思ったところで夕立ちじゃん!

うわー、土砂降りだわ

あら、私の手を引いてどこに…

おー、休憩所の屋根の下

雨宿りってやつね

アキラ、今度はバイクをここへ引っ張ってきた

バイクより真っ先に私か…

単純にいいんだな、こういうとこが






雨やどり/その3
ケイコ


雨足はますます強くなってきた

まるで私たちをここに閉じ込めるように降ってる

それでもいいよって気分の、私

アキラは私の右側で少し下を向いている

そろそろ口を開きそうな感じ

なんて言ってくるのかな?

...


屋根の下には雨宿りの人が結構いる

カップルはくっついて話をしてる

私たちも結構くっついている

おっ、アキラが話しかけてきた

なんかチークタイムの雰囲気みたいだ

さあ、お話しを聞かせて、アキラ兄さん


...


アキラは「怖い」と言った

今の自分から一歩を踏み出すのが

怖くて怖くてしょうがないって

ほんとは逃げ出したいって

ん?当たり前じゃん、そのくらい

誰だってそうだよ、フツーだよ

こりゃ、やっぱり支えてやるわ、私

...

とりあえず、2週間後にオーディションか

形式だけで、大体は話が”通ってる”らしい

場所は大阪

朝早くから始まるって

なんなら私もついて行くか

とにかく元気が大事だ、こういう時は

で、言っちゃったよ、大胆に

「私の体でも抱いて元気になれば」って

雨は相変わらず元気に降ってる

...


じーっとアキラの目を見つめて言った

さあ、アキラの反応はどうかな

笑ってる!おい!

「こんなションベンくさい小娘じゃ、いやか」

まだにっこり笑ってる、おい!

「ケイコちゃんはションベン臭くないよ」

だって。それで?

「大阪でちゃんとできて帰ってきたら」

はっきりさせよう

「いるの?いらないの?私の体」

「もらうよ、戻ってきたら」

ま、成立ということでいいか

あっ、気が付いたら雨、止んでた







雨やどり/その4
アキラ


この屈託のなさにやられたのかな

誰にも見せたくなかった心の根っこが吐き出せた

赤子さんにだってこうは言えなかったのに

オレははっきりと「怖い」と言えた

7つか8つ年が下の女子高生に

自分でも不思議なくらいすんなり

話しただけで元気が返ってくる

逃げだしたいとも言ったのに

これってはっきり言って弱音だ

弱音を吐いたら吸い取ってくれる

それで元気だけでなく勇気も湧いてくる

2酸化炭素を吸って酸素を送る

まるで植物のように


...


あけっぴろげでびっくりした

こんなセリフ、ためらいなく口にできるなんて

ホントにこの子は子供なのか大人なのか

ただ奔放なだけなのか

魅力的だ…、でも危険な何かも感じたりする

突き抜ける透明感があるかというと、そうでもない

ピュアすぎる気もするが、アンニュイでもある

...


とにかく、おかげで大阪は少し気が楽になってきた

コトを済ませて戻ったら、この子を抱く

こんな女の子に出会えてうれしい







雨やどり/その5
アキラ


彼女を送ってきたら、あらら

ケイコちゃん一人暮らししてんのかぁ

うーん、高校生がアパート借りて

決して家賃安くなさそうだけど

ひょっとしていいとこの令嬢とか?

それとも…、いや、変な憶測はやめとこう

でも、いろいろ驚かされるなあ

それと、さっきまでのノリと微妙に違うような

気のせいかな、やっぱり

...


次の約束は彼女からだった

あさって、夕方の5時に迎えに来てと

一緒に行って欲しいとこあるって

どことは言わなかった

珍しく事務的な話し方が気になった

今までのちょっといたずらっぽいところがない

そんな感じがしたのだ

とりあえずは今度会ってからだ

オレはアパートの前で彼女とバイバイした

...


彼女は階段を上がっていった

部屋は2階の角部屋らしい

ドアを手にしながら再度ふり返ってくれた

にっこり笑って手を振ってる

「今日はサンキュー。楽しかったよ。おやすみー」

結構でかい声で再びお別れのことば

また元気をもらった

さあ、あしたから残務整理に入らなきゃ

事実上、マッドハウスのオレは今日で終わる







雨やどり/その6
ケイコ


アキラ、びっくりしてたかな

高校生がアパート借りてたんじゃね

今日は驚かせっぱなしだった訳だ

トイレの待ち伏せから始まって

でも、もっと驚かせることあるしなぁ

さすがに”あのこと”知ったらヤバイかも

とりあえず、あさって川原に連れてって

あと、それからだ私の秘密は

だから、今日は部屋に入れなかった


...


正直、話せるかはわかんない

私も「怖い」

アキラと一緒

一歩踏み出さなきゃいけないのも

その一歩はホント怖い、逃げたい

でもアキラは私に話してくれた

だから、私もすべて話そうと思う

アキラはそれを言える相手だ

この夏、決まりをつけよう

勇気を出して、アキラがいるから

ふーっ、疲れたせいかふらつく

早く寝よう




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