少女達の青春群像           ~舞、その愛~
 寒空の下、紗智の絶叫が校庭に響き渡る。

「なんですってぇー!」

 やはり外に連れ出して正解だった。校舎内でこれをやられていたら目立って仕方がなかっただろう。

 寒いのは我慢ができるけど、目立つのは到底我慢ができないもんね。

 まっちゃんにバレるわけにはいかなかったし!

「とにかくこれについては、まっちゃんの耳には入れたくないので…」

「当たり前でしょ!」

 舞の言葉を、紗智が怒鳴って遮った。

「こんなことがまっちゃんの耳に入ったら…と思うだけでゾッとするわよ。できることなら私も知らずにいたかったわ」

 それについては響歌も同感だったが、何故か自分も勝手に引きずり込まれたのだ。こうなったら道連れは多い方がいい。そう判断して、まずは真子と仲がいい紗智に話すことに決めた。

「私達も最初は黙っておこうかと思っていたんだけど、2人だけで隠し通せるようには思えなかったんだもの。だからまっちゃんと一番仲がいいさっちゃんに話して注意しておいてもらおうと思ってさぁ」

 響歌のこの言葉で、自分が貧乏籤を引かされたことを悟る紗智だった。

「なんたって、私達は運命共同体だからね。一緒にまっちゃんを男子達から守っていこう!」

 うなだれる紗智に追い打ちをかける舞。

 私の運命まで一緒にしないで!

 紗智は叫びたかったが、こうなったからには仕方がない。いきなり自らの身に降りかかってきた運命を泣く泣く受け入れるしかなかった。

「やっぱりあのアニメグッズがダメなのかなぁ」

 舞が呟くように言うと、響歌が肩を落とした。

「それはあるかもね。このことがバレる以前から、まっちゃんのことは『糸井さん=アニメオタク』となっていたみたいだもの。それ以外にも高尾君は、かつて中葉君に『糸井さんって、ゴリラに似ている』と言っていたみたいだし。まっちゃんの本心を知った時は『告白してきたら酷いことを言ってやる』と豪語してたって言うし…」

「何よ、それ。高尾君って、そんな嫌な男だったの!」

 紗智の顔は怒りで真っ赤になっていた。

 本当は舞も紗智のように素直に怒りを表現したい。だが、自分はそんな高尾に真知のことがバレるきっかけを作ってしまったのだ。怒る以前に落ち込んでしまう。

 罪悪感でいっぱいだ。

 それは響歌も同じだった。

 響歌は直接にはこの件に関わっていなかったが、これは自分が舞と中葉を2人きりにさせたことによって起こったことなので責任を感じてしまうのだ。

 2人のやり取りが事前にわかっていれば、絶対に2人きりになんてさせなかったのに!

 どんなに嘆いてもバレた事実は覆すことができない。今となっては真子の高校生活が平穏無事に終わることを祈るしかなかった。
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