少女達の青春群像           ~舞、その愛~
 フフフフフ。

 昨日の放課後、中葉君と週末デートの予定も立てられたし、私の両腕の中にある『愛の交換日記』からはいつもラブラブ光線が放たれているし!

 私ってば、なんて幸せ者なのかしら。

 舞はニヤニヤしながら『愛の交換日記』を読んでいた。

 そんな舞を、響歌は呆れながら見ている。

「ねぇ、聞いてよ響ちゃん。中葉君って、私へのエンゲージリングはアメジストの指輪にしようと思っているんだって。アメジストといえば紫。紫といえば私の好きな色。中葉君ったら、いつの間に私の好きな色を調べてくれたのかしら。それとも『似合う』と書いてあるから調べずとも愛の力でわかったのかしらね。いやぁ~ん、舞まいっちゃう~」

 参りたいのは響歌の方だった。

 1人でもこうなのに、こんなのが2人揃ったら…

 舞から視線を外して前方に向ける。その先には、話をしている2人の男子の姿があった。

 2人は響歌の視線を感じたのか、話を止めて舞と響歌のところに来た。

「やぁ、ムッチーに響ちゃん。あっ、ムッチー、これは今日の分ね」

 中葉は交換日記を舞に渡した。

「中葉君、私も書いたからね」

 舞の方もさっきまでニヤニヤしながら読んでいた交換日記を渡した。

 後の2人…響歌と橋本は呆れている。

 いつもならここから2人だけの世界が始めるのだが、今日は違った。中葉はここに来るなり舞の隣にある紗智の席に座るのに、今は舞の傍に立ったままでいる。鞄も手に持ったままだ。

「どうしたの、中葉君。いつものようにさっちゃんの席に座らないの?」

 不思議に思っている舞に、中葉はにこやかに笑った。

「ムッチーも響ちゃんも、早く帰る準備をして。これからみんなで橋本の家に行くから」

 えっ、なんでまた橋本君の家に行くことになっているの?

「橋本君の家って、確か仙田駅の近くだったはずだよ。学校から歩いて行くと、多分1時間はかかってしまうよ。あっ、それとも電車に乗って行くの?」

 今日は土曜日で学校は休みのはずだが、舞達は講習を受ける為に学校に来ていた。それでも午前中に終わったので午後からは時間が空いている。だから舞は、これから中葉と一緒にご飯を食べた後、ラブラブするつもりだったのだ。

 それなのに中葉の方はそんな風には考えていなかった。

 中葉君ってば、私と2人でいるよりも、みんなと一緒にいる方がいいのね。

 舞の気分が降下する。それに伴い声のトーンも落ちていた。

 中葉はそれに気づき、舞の頭を撫でた。


「ムッチー、そんなに拗ねないで。オレもムッチーと一緒にいたいけど、友達も大切にしたいんだ。あぁ、でも、電車に乗るつもりは無いよ。昨日、橋本と響ちゃんが仙田駅まで歩いたみたいなんだ。橋本の家はそこからすぐ近くだというから歩けないことは無いだろ」

 なんですって!

「響ちゃん…私、その話知らない」

 益々不機嫌になった舞に、響歌が慌てて弁解する。

「あんたはさっきまでずっと交換日記を見てニヤニヤしていたじゃない。話すタイミングが見つからなかったのよ」

「ニ、ニヤニヤなんてしていないよ。ただちょっと頬を紅色に染めていただけじゃない。だってね、中葉君が『愛の交換日記』に恥ずかしいことを書いてくれたんだもの。舞、困っちゃって」

「恥ずかしいなんて思わなくてもいいんだよ。あれは全部本当の気持ちなんだから」

「中葉君」

 2人を置いて、舞と中葉は惚気始めた。

「おいおい、今日はオレの家に行くんじゃなかったのかよ。こんなところで惚気ているのなら、この話は無しだ。オレは帰るぞ」

 橋本は本当に帰る気なのか既に1人で行こうとしているが、それを響歌が止めた。

「ちょっと、橋本君、待って。ねぇ、中葉君どうするのよ。本当に橋本君の家に行く気なの。それとも2人だけで惚気ておくの?」

「もちろん行くに決まっているじゃないか。ほら、ムッチーも行くよ。この続きは橋本の家でしよう」

「言っておくが、オレの家ではイチャつくのは禁止だからな」

 どうやら橋本も本気で帰るつもりは無かったようだ。すぐに歩みを止める。

 それでもさすがに自分の家でこんなことをされるのは嫌なのだろう。2人にしっかりと釘を刺した。
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