献身遊戯~エリートな彼とTLちっくな恋人ごっこ~

俺の様子に、総務部の社員たちの視線が集中する。
カウンターの近くには、スマホを耳に当てたままの愛莉が立っていた。

「あ。穂高さん」

彼女の腕には例の封筒が抱えられていた。
走りすぎて喉から血の味がし、絶望で頭が真っ白になる。

「これ、封筒です。どうそ 」

「……え?」

ふらふらとカウンターへ寄ると、彼女から『よつば商事 御中』と書かれた封筒が差し出された。
封は切られていない。

「西野さんから渡されたんですが、宛名が違っていたので。開けずに、たった今、支店にご連絡したところだったんですよ」

「…………開けて、ない」

「はい。確認せずお預かりしてしまったようで、申し訳ありませんでした」

受け取るために手を出すと、自分の手は震えていた。
冷や汗が熱さに変わり、絶望は安堵へ、緊張感は脱力感へ。
柔らかい笑顔を浮かべる愛莉は、まるで女神のようで──。

「愛莉!!」

俺はカウンターの向こうの彼女の手首をとった。


< 133 / 144 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop