ドS弁護士は甘い罠を張る。~病院で目覚めたら危険な男の婚約者になってました~

冒頭陳述

あっと思った時には遅かった。

慣れないピンヒール。ぐにゃりと足首が曲がる。足場の悪い階段ではとっさに立て直すこともできず、手すりを掴もうとした手は空を切った。

原因は踵の高いパンプスだけではない。
着慣れないふわふわとしたドレスも足に絡まり、体はぐらりと傾いだ。

(―――落ちる)

周囲から悲鳴があがる。

宙に投げ出された体はあっという間に重力を帯びる。

「――――危ない‼」

階段の下から怒鳴ったのは、七生(ななお)だった。
いつも人を小ばかにしたような笑みで見下してくる顔が、今は遥か下方に見える。
一番ぶつかりたくない人間だ。

しかし(ふみ)は、彼に吸い込まれるように落ちた。
転がり落ちる中、パーティー参加者たちの驚いた顔が視界の端に流れるように映った。

このままだと七生を押しつぶしてしまう。
怪我などさせたら、治るまで毎日くどくどと嫌味を言われ、慰謝料請求、場合によっては精神的苦痛が……などと訴訟を起こされかねない。

避けてほしいのに、彼は文に向かって腕を大きく広げて身を乗り出した。

意外にもその時、彼には似つかわしくない弱弱しい表情が目に入る。

(――――え……)

七生が自分を案ずるなどありえないことだ。
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