【本編完結】誕生日に捨てられた記憶喪失の伯爵令嬢は、辺境を守る騎士に拾われて最高の幸せを手に入れる

第13話 キュラディア村収穫祭(2)

「リーズっ!!」

 ニコラの駆け出しも虚しく、魔獣の鋭い爪はリーズの腕を切りつける。

「んぐっ!」

 思わず顔を歪めるリーズにニコラが急いで駆け寄る。
 魔獣とリーズの間に割って入ると、リーズを背に魔獣に剣を向けた。
 動きの停止した魔獣はようやく人間が姿の全容を認識できるレベルになる。

(狼……?)

 魔獣というのは辺境の地や一部の森に生息する魔物のことで、人間に害をなす者もいれば共存できるものもいる。
 動物のようなそれは、うさぎやリスのような小さな魔獣ならば人間から逃げたり逆にすり寄ったりするだけで害にならない。
 しかし、今回現れた魔獣は人間よりもはるかに大きく、四つ足で立っていても成人男性の身長ほどある狼のような見た目をした獣。
 ニコラは経験上、”それ”が人間に害を及ぼすものだと判断して戦闘態勢を崩さない。

(ここで闘ったら村人を巻き込むかもしれない、それにリーズも……!)

 ニコラは魔獣の気を逸らすべくそっと近くにあった小石を蹴って森のほうへと誘導しようとする。
 小石に意識が向いた魔獣はそのまま森に歩き始めた。

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