落ちこぼれ聖女ですが、王太子殿下のファーストキスは私がいただきます!【書籍化決定】
 池に落ちる前に揉み合った時にひねったのだろうか。少し腰や背中が痛むので、ローズマリー様の優しい手がとても心地よい。


「ディア。そう言えばアーノルト殿下の運命の相手のことだけど」
「はい……」
「殿下に呪いがかけられていることを知った上で占ったの? もし貴女の占いが間違っていたとしたら、殿下の命を危険に晒すことになるのに」
「そうですよね。私も占う前に呪いのことを知っていたら、お断りしていたと思います」
「殿下のこともそうだけど、私は貴女のことも心配してる。もしリアナが殿下の運命の相手ではなく、リアナにファーストキスを捧げた殿下が命を落としたら……ディアも責任を取って処罰されるはずよ。それが怖いの」


 ローズマリー様の手から放たれた魔力が、私の背中をチクチクと刺す。そこから全身にじんわりと魔力が広がっていく。心地よい疲れが私の瞼を重くする。

 ローズマリー様は私の背中に手を当てながら、殿下の恋占いの結果を取り消すようにと何度も私に言い聞かせた。眠気に襲われながら、私はなぜだか昼間見た夢のことを思い出していた。

(あの頃の私には、もっと強い魔力があったはず――)

 洪水の数日後、河原で身分の高そうな少年と出会った。
 村人に囲まれていた少年を助けた時は無我夢中だった。自分でも何をしたのか、はっきりとは覚えていない。
 濁流に放り込まれた後に自分の力で岸に戻ったのは確かだ。そしてその後は諍いがおさまるようにひたすら祈った。私の気持ちが通じたのか、少年を囲んでいた村人たちは平穏な心を取り戻し、その場を去った。

(あの男の子とは、どうやって別れたんだっけ)

 たまたまその場を通りかかったエアーズ修道院のシスターが、私を保護してくれたことは覚えている。


「私の魔力……一体どこに消えちゃったんだろう……」


 昔の夢を見たり、リアナ様の嫌がらせを疑ったり。心の中は色んなことで騒がしくて忙しいのに、体を包むローズマリー様の回復魔法の力には勝てない。

 私はそのまま、深い夢の中に沈んでいった。
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