落ちこぼれ聖女ですが、王太子殿下のファーストキスは私がいただきます!【書籍化決定】


 殿下に別れのご挨拶をして、私は城を出るために回廊を歩いて門に向かった。

――『ファーストキスの相手はローズマリー嬢に頼むことにするよ』

 寂しそうにそう言った殿下の顔が頭から離れない。ローズマリー様にファーストキスを捧げれば、殿下の呪いは解ける。ローズマリー様も妹のリアナ様が殿下の婚約者候補であることは分かっていらっしゃるのだから、何も心配することはない。何もリアナ様への想いを諦めてまで、ローズマリー様を王太子妃に迎える必要なんてないのだ。

 ただローズマリー様を信じて、「キスして欲しい」と頼めば良いだけだ。

 それなのに、殿下のあの全てを諦めたような表情。
 そして、私の心に引っかかるモヤ。

(ローズマリー様にも、さっき私にしたみたいにキスするのかな)

 頬をかすめた細くて柔らかい殿下の髪の感触を思い出して、私は自分の頬に右手を当てる。ローズマリー様とキスをすれば殿下の命は救われるはずなのに、どうして私はこんなに胸が痛いのだろうか。

 アーノルト殿下のファーストキスは私のものではない。それなのに、何だか自分の大切なものをローズマリー様に奪われたような気持ちになり、私はフラフラと回廊の手すりにしがみついた。

 するとその時、回廊の近くで誰かの声がした。

「待ってください、リアナ嬢」
「ガイゼル様」

 ガイゼル様とリアナ様だ。
 私は思わず柱の陰に身を隠す。

「陛下とのお話は終わったのですか? ヘイズ侯爵は?」
「父はまだ国王陛下とお話しておりますわ。このあとアーノルト殿下も交えて、もう一度私の処遇について相談なさるそうです」
「それでは、貴女がアーノルト殿下の婚約者候補のご令嬢たちに嫌がらせをしているという噂は、事実なのですか?」
「……ガイゼル様は、どう思います?」

 冷たい声色ではあるが、どこか恐る恐ると言った様子で、リアナ様はガイゼル様に尋ねる。
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