落ちこぼれ聖女ですが、王太子殿下のファーストキスは私がいただきます!【書籍化決定】
「殿下。私の聞き間違いでしょうか。今、『呪い』……と仰いましたか?」
「そうなんだ。実は先日、ちょっと呪いをかけられてしまってね」
「ちょ、呪いの話をそんなポップな感じで言わないで!」
「私のファーストキスを運命の相手に捧げることで、呪いが解けるのだ」
「ふぁっ、ファーストキス?!」


 もう本当にツッコミどころが満載すぎて少し時間が欲しい。
 アーノルト殿下はリアナ嬢とやらにピュアな恋心を募らせて、私の恋占いに(すが)るため、わざわざこんな田舎街までやって来た。

(勝手にそう思っていたんだけど、もしかして違った?)


「殿下、落ち着いて下さい!」


 人に落ち着けと要求しておきながら、私の手の方がよっぽど震えている。

(まず落ち着くのは私だよ、クローディア!)

 自分に言い聞かせながら、私は心の平穏を求めて辺りをぐるぐると歩き回った。


「すまない、驚かせてしまったね。大丈夫だ、リアナ嬢が私の運命の相手だと分かれば何の問題もない。私のファーストキスをリアナ嬢に捧げれば良いのだから」
「……ちょっと待って!!」


(――どうしよう、どうしよう!!)


 アーノルト殿下が呪われていることを知らなかったとは言え、嘘をついてしまったのはあまりにも軽率だった。でも、誰が王太子殿下に呪いがかかっているなんて想像できるだろうか。

 そして殿下の仰ることが全て真実ならば、殿下の呪いを解くためにファーストキスを捧げるべきは、リアナ様ではなく私だ。
 しかし、今更真相を伝えることもできない。

 目の前でニコニコと微笑む殿下に向かって、私は念のために問うてみた。


「アーノルト殿下。もし、解呪に失敗したらどうなるんですか?」
「二十歳の誕生日が終わるまでに呪いが解けなければ、私は死んでしまうんだ」

 (――え?)

「すみません。もう一度聞きますが、もし呪いを解くのに失敗したら?」
「死ぬ」


 せっかく立ち上がって服の土埃を払ったにも関わらず、私はもう一度ぬかるんだ地面にくずおれた。

(失敗すれば死ぬ、ですって? どうして早く言わないの? もう少し早く教えてくれたら、私だって変な嘘をつかずに済んだのに)


「ちなみにお誕生日はいつ……」
「一月後だ」


 今からでも本当のことを伝えようか。
 しかし今更真実を伝えようものなら、王太子のファーストキスを奪いたいために嘘をついた、ただの不届き者だと思われるかもしれない。

(言えない……でも、ファーストキスをリアナ様に捧げられてしまったら、もう取り返しがつかない)
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