少女達の青春群像     ~途切れなかった絆~
「この時、オレのスマホに橋本から電話がかかってきたんだよ。『オレら、別の場所で見るから』ってさ。で、花火が終わった頃、茂みの中からゴソゴソと出てきたんだよな」

 この言葉は、同窓会に参加していた黒崎の発言だった。

「何それ、怪し過ぎるでしょ」

 そう返すのは、響歌と3年間同じクラスだった松永(まつなが)さくらだ。

「その日って、花火の前に宮内の方まで海を見に行っていたんでしょ。それなのに、また柏原に戻ってきて花火を見たんだ。川崎君もいたみたいだけど、よく彼がそこまでつき合っていたよね。川崎君なら、宮内に行った時点でそのまま帰りそうなのに。もしかして、実家じゃなくて今住んでいる家に帰ったの?」

「あいつなら実家の方に帰ったぞ。オレが送っていったから間違いない」

 黒崎は響歌の疑問にサラッと答えたが、それを聞いた4人は一瞬時が止まった。

「えっー、わざわざ送っていってあげたんだ。川崎君よりも黒崎君の方が大変だったでしょ!」

 驚くさくらに、舞も続く。

「そうだね、川崎君の家って私の実家の近くだもの。柏原からだとかなり遠いよ」

「まぁ、オレが送ると言ったから、あいつは花火の時までいたんだからな。それくらいはするって。そうそう、あいつさぁ、何故かその時にバイオリンを持ってきていたんだよな」

「バイオリンって!凄いじゃない。聞いてみたいなぁ」

 響歌は川崎の高尚な趣味に驚き、興味を持ったが、黒崎はそこに食いついた響歌に驚いた。

「えぇっー、聞いてみたいか?」

 そんな言葉まで出ている。

「聞いてみたいわよ。私がその場にいたら、絶対に弾いてくれるように頼んでいたのにー!」

 響歌はとても残念そうだったが、すぐに切り替えて中葉のレポートに目を向ける。

「それにしても本当に見にくいレポートね。もう少しは間隔をあけないとダメでしょ。文字と文字がくっついているじゃない」

「そうだよな、あいつも印刷会社に勤務しているんだから、そこは基本だろ」

 同じようなデザイン系の会社に勤務している響歌と黒崎は、中葉のレイアウトにいちゃもんをつけ始めた。

 4人が今いる場所は舞の家だ。今流行中のダンスゲームをしながら舞宛に送られてきた中葉のレポートを見ていた。だからもちろんこの場には舞もいるし、真子までもがいた。

 中葉主催の同窓会から半年経過していたが、その間に色々な偶然からこうして集まるようになっている。

 その中で中心になっているのは、やはり響歌と黒崎だった。元々はここから発展していった集いなのだ。

 それでも2人がつき合っているとか、そういった関係なのではない。黒崎にはつき合って3年目になる彼女がいるし、響歌はその彼女とも仲が良かった。今では舞達よりも彼女と一緒にいる時の方が多くなっているくらいだ。その彼女に加え、黒崎と一緒の会社で、8つ年上の女性と3人でつるんでいる時が多かった。

 今はたまたまこうなっているだけだ。

「あの2人って、つき合うとなると合わなさそうなのに、よくもまぁ、半年も続いているわよね。やっぱり遠距離だからなのかなぁ」

 自分が橋本に紗智の気持ちをバラした結果、2人はつき合うことになったのだろう。紗智の気持ちを知って自信を持った橋本が、同窓会の時に紗智に接近。もちろん紗智の方も、もしかしたら橋本に会えるかもしれないと期待をして、グループの中でただ1人の参戦とわかりながらも参加したのだろう。

 響歌には、橋本がへらへら笑いながら『オレら、つき合わない?』と紗智に言っているところまで容易に想像できてしまった。もちろん紗智がそれを断る理由なんて無い。彼女は次々と好きな男を変えられるような性格ではないのだ。橋本のことをずっと想っていたのだろう。

 だが、短期間で終わるだろうとも予想していた。2人の性格を考えると、長続きするとはとても思えなかったのだ。

「そういえばこの前、橋本が『オレら、もう無理かもしれない』とか言っていたぞ。オレはあの2人がまだ続いていたことにびっくりして『お前、まだつき合っていたのか!』って、つい返してしまったんだけどさ」

 黒崎は橋本が就職で地元に帰ってから、たまに彼と会っていた。その時に紗智とのこで橋本が弱音を吐いたが、今のこの口振りだとあまり真剣には受けていなかったようだ。

 同窓会でつき合った者の宿命か、紗智と橋本は至るところで噂にされていた。

 それでもこの時に話していたのは、この2人のことだけではない。

 同級がこの場に5人揃っているのだ。話は高校の時のことにもなっていた。

「そういえば響歌ちゃんは、高校の時に中葉とつき合っていたの?」

 中葉とのことを訊ねたのは、高校の時にも訊ねたことがある黒崎だ。黒崎は響歌と再会してから彼女のことを『響歌ちゃん』と呼ぶようになっていた。さくらもそうだった。

 ちなみに2人共、舞のことも『ムッチー』と呼ぶようになっている。

「なんでそうなるの。私は以前、つき合っていないって言ったことがあるんだけどね。あの人とつき合ったことがある人はムッチーだけよ。だから諦められずにこんな風に送ってきているんじゃない。あんたも罪深い女よね、ムッチー」

「ムッチー、愛されているよね。5組の文集にもムッチーの名前を書いていたもんね、あの人」

 さくらも楽しそうに言っている。

「何、あいつ、5組の文集にムッチーの名前を書いていたの?」

 どうやら黒崎は、このことを知らなかったようだ。

 何も知らない黒崎に、響歌が説明する。

「そうなのよ。5組の文集には、結婚したい人とかその年齢とかを書く欄があったんだけどね。あの人ってば、それに『結婚したい人は今井舞のような人』って書いていたの。しかも名前の部分が凄く協調されていたのよね」

「あれ、後で『のような人』をつけ加えたような感じだったよ」

「確かにそうだよね。それに年齢も、子供が2人欲しいところも、ムッチーとつき合っていた時に話していたこと、そのまんま」

 5組だった響歌とさくらは、中葉の文集のことで盛り上がっていた。

「…あの頃はどうかしていたんだ」

 舞が苦しさを吐き出すように呟くと、みんなは爆笑した。

「それにしたって、普通はCDまで送ってこないでしょ。しかも自分のひげ面の顔つき。ムッチーに聞かせてもらったけど、眠くてたまらなかったわよ。あれって、自分で作曲したのかしらね?」

 響歌の質問に、舞が首を傾げた。

「ゲームに使われているような音楽だったけど、実際はどうなんだろ。でも、さすがに販売するほどの価値はないよ。亜希ちゃんだって『あれはとてもよく眠れそうな音楽だった』と言っていたもんね」

「このCDって同窓会で販売していたけど、みんな買わなかったから最後には男子達にただで配っていたぞ。いらないって言っているのにも関わらず、強引に渡されたんだよな」

 なんと黒崎も、中葉のCDを持っているらしい。

「そういえばさくらちゃんって、高校の時に彼氏がいたの?」

 響歌が訊いてみると、さくらは大きく首を横に振った。

「そんなの、いない、いない。寂しい高校時代を送っていたよ。黒崎君は?」

「オレは2年の夏に1カ月くらい一つ上の人とつき合っていた。初体験もその人だったな。でも、よくカラオケでその時に流行っていたデュエット曲を歌わされてさぁ。あれには参った」

「そういえば黒崎君って、その時期に指輪していたもんね。彼女からもらったって言っていたしさ。でも、1カ月しか続かなかったんだ」

 響歌が思い出したように言う。

「そう、その時は続かなかったの。まぁ、今は3年くらいになっているけど」

 だからだろうか、つき合っているわりにはラブラブな雰囲気は無い。それどころか、黒崎は彼女の愚痴みたいなのもたまに零していた。トミオムの小同窓会の時は彼女とのデートを優先して欠席していたのに、偉い変わりようだ。

 みんなこんな感じで暴露をしていたが、その中で唯一、真子だけが何も暴露していなかった。みんなも真子にはそれについて話を振らなかった。

 まぁ、響歌と舞、それと黒崎は、敢えてそれを避けていたのだが…
< 8 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop