主役になれないお姫さま
「帰るぞ。」

一真さんがアプリを使ってタクシーを呼んでいたそうで、そのまま乗り込み彼のマンションへと向かった。

タクシーの運転手さんに行き先を告げてから、一真さんは一言も声を発さず沈黙を続けていた。

視線は窓の外に向けているが、繋がれた手は指を絡めたまま。

吉川くんとあの体制になってしまったのは、彼がよろめいてしまったからで、本当に偶然だった。

 きっと、誤解してるのかもしれない。

「一真さん?」

勇気を出して恐る恐る声をかけてみる。

「ん?何?」

返事した雰囲気はいつもと変わらない。

「…何か、誤解しているんじゃないかと思って…。」

「…んー。誤解ねぇ…。」

「はい。さっき酔っ払った吉川くんがよろめいて転びそうになってしまって、支えようとしたんですが私までバランスを崩してしまって…。」

先ほどの体制になってしまった経緯を説明した。

「ふーん…、それで?」

繋いだ彼の手に力が入るのが分かる。

「だから、私と吉川くんはただの同期で…。あの体制になってしまったのは本当に偶然で…。」

「……。」

返事がない…。

「お客さん、この辺りで良いですか?」

「はい、車寄せがあるのでマンションの敷地に入っちゃってください。」

一真さんが説明すると運転手さんはその指示に従って車を停めた。

精算を済ませタクシーを降りる。

手は繋がれたまま沈黙の状態でエレベーターに乗った。
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