主役になれないお姫さま
「失礼します。付き添いの方は患者さまの身内のだと伺いましたが…。」

待合室のベンチに座り何も出来ずに1時間ほど過ぎた頃に看護師が声をかけてきた。

「はい、結婚はまだしてませんが一緒に住んでます。」

「そうですか、それでは先生からのお話があるようなのでこちらはどうぞ。」

『カンファレンスA』と書かれた部屋へと連れて行かれた。そこに診察室にあるようなパソコンとモニター2台があった。それから5、6人が打ち合わせできるようなテーブルとホワイトボードが置かれていた。
きっと患者の症状を分かりやすく説明するためのものだろう。

「おかけになってお待ちください。」

言われた通りに座った。
こんな部屋に連れてこられるなんて、詩乃の容体はそんなに悪いのだろうか…。不安で手に汗握る。

「お待たせしました。三浦詩乃さんの身内の方ですね。」

同年代くらいの女医が部屋に入ってきた。

「はい。一緒に暮らしております。」

「ご結婚の予定は?」

「僕は考えていますが、まだ彼女とはその話をしたことはありません。」

「…そうですか。」

先生はパソコンの前に行くと詩乃のデータが僕に見えるようにモニターの角度を変えた。

「階段から落ちた際の外的な怪我は骨折もありませんし頭部の検査結果も異常はありませんでした。」

「…良かったです。」

異常がないと言う割には医師は笑顔を見せない。

「三浦さんからご妊娠の話は聞いてますか?」

「…にん…しん、ですか?」

「はい。正確には最終月経日を伺って、その日から日数のカウントになるのですが、このエコーの映像にある成長具合から判断すると12週から15週の間でしょうか…。」

「彼女のお腹に僕の子がいると言う事ですか!」

思いがけない幸運に興奮した。

「いえ、誠に申し上げにくいのですが、過去形になってしまいました。こちらに搬送された時には出血が始まっており、その後、出血は止まらず残念ながら小さな命を救うことは出来ませんでした。」

先生は最善を尽くしてくれ何も悪くないのに俺に頭をさげた。

「助けてあげられず申し訳ありませんでした。」

「…そう…ですか。もう、お腹には居ないと言うことですね…。」

先程、一瞬でも喜んでしまった分、失望感がより重くのしかかったか。

「現在、三浦さんはすでに処置が終わっております。麻酔がまだ効いており、病室で眠っていますがそろそろ目を覚ますと思います。会われますよね?」

「はい。もちろんです。」

医師は看護師を呼ぶと俺を病室に案内するように指示を出した。
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