主役になれないお姫さま

いつまでもそばに…

内容はわからないが急用での外出であれば、午後は一真さんは忙しかったに違いない。
好物のハンバーグの材料と彼の好きな銘柄のビールを籠に入れた。
マンションの最寄りのスーパーで夕飯の買い物を済ませてからマンションへ着くころにはすっかり外は暗くなっていた。

玄関のドアを開けるとふわっと花の香りがし、彼の靴があることで帰宅済みだと気づく。

「…ただいま。」

そのままリビングのドアを開けると、大きなバラの花束を抱えた一真さんが立っていた。

「お帰り。はい、これ。」

スーパーの袋を床において、花束を受け取る。

「今日って、何かの記念日だったっけ?」

「まだ、記念日じゃない。これから記念日にする。」

「どういう事?」

「今日、詩乃が昼休みに同級生に口説かれているのを見て思ったんだ。他の誰にも取られたくないって。」

そういうとジュエリーブランドの紙袋からリングケースを取り出した。

「俺、バツイチだけどプロポーズをするのは初めてなんだ。はは。」

「プロポーズ?」

リングケースからダイヤモンドが輝く指輪を取り出すと、私の左手を取り、片方だけ膝を付けてかがむと薬指にその指輪をはめた。
驚くことにサイズはピッタリだった。

「詩乃、俺と結婚して欲しい。」

「結婚?」

「あの後、役所に行って婚姻届けをもらってきた。俺の欄は既に埋まっている。あとは、詩乃が記入してくれれば今日にでも提出できるぞ。」

「もしかして急用って…。」

「…そうだ。余計な虫が近づかないようにしたくてね…。こんなに独占欲に駆られるのは詩乃以外にはいない。ずっと詩乃と一緒にいたいんだ。」

驚きすぎて言葉がでない。

「だからって…。突然すぎるよ…。」

「結婚のことはずっと頭にあったんだ。なかなか言い出せなくてね…。返事をもらえるかな?」

「もちろん、結婚するわ。私にとっても一真さんしかいないもの。」

返事をすると、一真さんはゆっくりと立ち上がりキスをした。

「良かった。こんなおじさんで申し訳ないけれど、どんなおとぎ話のプリンセスよりも幸せにすると誓うよ。」

「おとぎ話になんか例えないで…。魔法が解けてしまったら嫌だから…。」

私の言葉にスクっと笑う。

「魔法にかけられたのは俺の方だよ…。」




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