期限付きの政略結婚 〜過保護な副社長とかりそめ妻のすれ違い恋愛事情〜
「大丈夫か?」

斗真さんの声で、ハッと我に返る。

「斗真さん、危ないですよ!刺されたら死んじゃってたかもしれないんですよ?」

「瑞穂が死ぬよりいい。赤ちゃんも大丈夫か?お腹は痛くないか?」

「大丈夫です」

「そうか、よかった。無事で」

斗真さんの心底ほっとした声に、涙が止まらない。

このやさしさだけで、私はもうじゅうぶんだ。

斗真さんが彼女のところに戻ってもかまわない。

子どもは私ひとりでも責任を持って大切に育てよう。

そう決意していると、「斗真、片付いたわよ」と声がした。

明らかに低い男性の声なのに、女性のような話し方だ。

斗真さんが私から腕を離すと、うずくまる坂本さんに片足を乗せ、手をパンパンとはらう春海さんの姿が目に入った。

「春海、助かった」

「このくらい朝飯前よ」

彼女はふんっと鼻を鳴らす。

え?待って。さっき、男性の声だと思ったのに……

いつもの春海さんの声と違ったし、どういうこと?

「瑞穂、何か勘違いをしていたようだが、俺は男性に興味はない」

「だん、せい?」

「瑞穂さん、勘違いさせてすみません。私は戸籍も体も男です」

坂本さんを足蹴にしながら頭を下げた春海さんの声は、女性らしいトーンに戻っている。

全く話についていけない私は、斗真さんと春海さんを交互に見た。

< 112 / 123 >

この作品をシェア

pagetop