キャンディ
 翌日は、朝から公式戦のスケジュールが詰まっていた。
 試合前の練習で、部員達は落ち着かない様子だけど、どう見てもひときわ浮き足立ってるのがいた。

 山内。彼はかなりのあがり症だ。毎日見ていたから自然と分かってきた。山内は、大きな試合が近づくと気が高ぶってきて、緊張が表情や動きに出てしまう。普段の練習では先輩達を抜くくらい上手いのに、本番になると身体が、特に足の動きが鈍くなるのだ。

 思うようにできなくて、悔しそうに顔を歪める山内を、ずっと見ていて私まで苦しかった。
 だから、上手く伝えられなかったけど、意味があるのかも分からないけど、せめて「大丈夫だよ、がんばって」って伝わってほしくて。

 祈るような気持ちで彼を見つめていると、何かを鞄から取り出した。

 あれは……私があげたキャンディだ。山内がそれを口に放り込むと、こちらに気づいて笑った。

 いつもよりずっと、余裕がある。もしかして、大分リラックスできているのかもしれない。

 山内が、包み紙のセロハンをひらひらしてみせる。
 私も、顔が綻んでいくのを感じていた。


 でも、膨らんだ気持ちはその日のうちに萎んでしまった。

 試合後、山内が他校の女子に告白されているのを見てしまったのだ。会場の一角で、少しはにかむような山内を見ていられなくて、私は引き返した。

 今までにないくらい絶好調で試合を勝ち進めた山内に、賞賛を贈りたかった。私が役に立てたか、訊きたかったのに。

 その後も解散まで時間はあったのに、不安ばかり膨らんで声をかけられないどころか、避けるような態度をとってしまった。そのことにまた落ち込んで、翌朝起きても鏡に映る私の顔は暗かった。
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