ソルティキャップ
「どうして、死ぬなんて、そんなことを…」
彼女はまた俯いてしばらく黙り込んでから、再び口を開いた。
「もう長くないって、聞こえてきちゃって、どうせ死ぬなら治療するだけ、お兄ちゃんにもお母さんにも迷惑だから…」
「そんなこと、…」
「お父さんが死んでから、お母さんが代わりに働くようになって。でも私が病気になってから、お母さんが私の面倒まで見るようになって、過労で死にかけたんです。だからお兄ちゃんは高校に行くの諦めて、野球でスカウトされたのにそれも断って…私の面倒見たり家事もバイトもしてくれて…もし私が死んだら、お兄ちゃんもお母さんも、自由になれるから…もう無理してほしくなくて…」
彼女は言葉を重ねるほど、声が震え、言葉が消え入るようになっていった。叶汰が野球を辞めた理由を知った俺は、当時あいつの苦しさを理解しようともしなかった後悔が押し寄せて来た。と、同時に、俺はまた、大切な人を失うところだったと思うと、苦しくなって仕方がなかった。気付けば俺の頬には涙が伝っていた。
「陽介さんは、どうして泣いているんですか、?」
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