モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 あの瞬間を冷静に振り返ると、そうとしか思えなかった。

 背後から近づいてくる気配を察したユリアンが振り向きベアトリスを受け止めたが、気づかずに突き飛ばされていれば転移していたのはベアトリスひとりだったはずだ。

「は? そんなわけないだろ」

 ツェザールは顔をゆがめて笑う。しかしゲオルグが浮かない表情で口を開いた。

「俺もユリアンと同じ考えだ。結果的に失敗したがクロイツァー公爵令嬢は誰よりも早く転移魔法陣の存在に気づき、とっさにユリアンをかばおうとしたのだろう」
「ゲオルグまでなに言ってるんだよ、ありえないだろ?」

 そう。以前のベアトリスだったら考えられない行動。しかし変わってからの彼女だったらおかしくはない。平民の子どものためにあそこまで親身になれるのだから。

 子どもたちに囲まれてうれしそうにしていた様子が思い浮かぶ。カロリーネと楽しそうに笑い合う姿。ふたりきりの森の中で、ユリアンに焼いた芋を差し出したときの少し不安そうな顔。ユリアンがおいしいと言ったら微笑んだ。

 常に不満を纏い、なにもかもを恨んでいるようだったかつてのベアトリスはいない。

 今の彼女は表情豊かで優しく、気取らない。公爵令嬢として誰よりも華やかで気高い姿をしていながら、ふとした瞬間に素朴さを感じる、そんな人なのだ。
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