モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
◇◇
「ベアトリス、気づいたか?」
ゆっくり目を開けると、美しいサファイアブルーの瞳と視線が重なった。
ぼんやりしていたベアトリスは、自分を覗き込んでいるのがユリアンだと気づくと、大きく目を見開き体を起こそうとする。しかしすぐにユリアンに止められてしまった。
「だめだ。まだ安静にしているんだ」
「安静? 私はいったい……」
戸惑いながら部屋中に視線を巡らせる。むき出しの石壁の小さな部屋。孤児院の一室のようだ。
「中庭で倒れたんだ」
「あ……そういえば」
そのときの記憶がはっきりしてくる。
(ユリアン様と子どもたちに飲み物を用意していたんだわ)
コップを並べたトレイを花壇の近くのテーブルに置こうとしたとき、小さな青虫がいて虫嫌いのアンが驚いてその場でぴょんと飛び上がった。すると周りにいた子たちはその様子がおかしかったのか笑いだした。
ほのぼのした日常の一コマだが、ベアトリスはなぜかその光景を見て胸騒ぎを感じたのだ。そして直後激しい頭痛に襲われ……。覚えているのはそこまでなので、倒れてしまったのだろう。
(きっと前世にも同じようなことがあったから、変な感じがしたのね)
さっきまで忘れてしまっていたが、ロゼ・マイネだった頃、とくに面倒を見ていた女の子がいた。
レネという名前で、幼いのにあまり感情が顔に出ない不思議な雰囲気の持ち主。
森に置き去りにされていた家庭環境が特殊な子どもだ。