モフぴよ精霊と領地でのんびり暮らすので、嫌われ公爵令嬢は冷徹王太子と婚約破棄したい
 ユリアンはその答えを予想していたのか、落ち着き払った様子でうなずく。それからカロリーネに目を向けた。

「カロリーネ嬢はどうだ?」
「私の精霊には目に見えた変化がありません」

 これも予想通りだったのだろう。ユリアンはカロリーネに「ありがとう」と答えて机に突いた手を組んだ。

「変化があったのは弱い精霊。いや、強くない精霊と言った方がいいな。一定以上の力を持つ精霊には変化がないんだ」

 ベアトリスはわずかに目を見開く。

「カロリーネの精霊が無事なのはそのせいなんですね」

 カロリーネの精霊は攻撃力はないものの、強い力を持っている。

「いったいなぜ」

 カロリーネが不安そうにつぶやく。

「おそらく神木に異変が起きたのだろう。いつ我々の精霊にも影響が出るかわからない」
「神木が?」

 カロリーネの顔が青ざめる。彼女は神木の一部が枯れたのも聖女が行方不明なことも知らない。それだけに衝撃が大きいのだろう。

 精霊が生まれる異界とこの世界をつなげる鍵である神木を失えば、この世から精霊が消える。そうなったら人々の魔法の力は著しく低下し生活に支障をきたす。例えば転移門を使うのは難しくなるだろう。国家間の勢力が変化し、戦が起きるかもしれない。おそらく想像するのも難しいほどの多大な影響があるだろう。

 だから皆、必死に聖女を捜しているのだ。
 ベアトリスの胸中に嫌な予感が込み上げる。
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