魔法のいらないシンデレラ
「えーっと、それでは。さ、早乙女、 る、瑠璃さん」
「はい」

数日後、総支配人室で、瑠璃は一生と向き合っていた。

社員になることを決め、総支配人の面接を受けることになったのだ。

「あ、その、別に、そんな、あの、緊張しなくても、気楽に、でいいですから」

(それはご自分ですよっ)

早瀬は、ヒヤヒヤしながら自分のデスクで見守る。

「はい。よろしくお願い致します」

瑠璃は丁寧に頭を下げる。

(まったく。どっちが上司だか…)

早瀬は小さくため息をついた。

「はい。えー、では…」

一生は、手元の履歴書に目を落としながら質問を考える。

「好きな食べ物は?」

(お見合いかっ?!)

思わず早瀬は心の中でツッコミを入れる。

「はい。和食が好きなので、煮物などよく作ります。あとは、デザートやケーキも大好きです」
「そうですか。それはよかった」

(よ、よかった?!なぜ?)

早瀬のツッコミは止まらない。

「それでは、えー、今日から、正式に社員ということで。あの、引き続き企画広報課に配属となりますが、あー、なにか質問は?」
「いえ、青木課長より契約について詳しく説明して頂きましたので、特に疑問点はございません」
「あ、青木くんね。はい。それでは、そのー、今後もよろしくお願いします。ということで?」
「はい。今後ともどうぞよろしくお願い致します」

瑠璃が立ち上がってお辞儀をすると、一生もガタガタと立ち上がる。

早瀬は、目も当てられないとばかりに、顔を覆いながらうつむいた。

「あの、総支配人」
「は、はい!」

出口に向かいかけた瑠璃が、ふと一生に呼びかける。

一生は、気をつけの姿勢で大きく返事をした。

「あの花瓶、飾ってくださっていてとても嬉しいです。きれいなお花ですね」
「あ、こ、この花瓶ですね。はい、飾らせて頂いてます。デスクの雰囲気も明るくなり、とても気に入っております」
「それはよかったです」

にこやかに微笑むと、では失礼致しますと言って、瑠璃は部屋を出ていった。

はあーと、一生は椅子に座り込む。

(ため息をつきたいのはこちらですよ、もう)

早瀬も心の中で大きくため息をついた。
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