魔法のいらないシンデレラ
「良かった。やっと笑ってくださった」

え?と顔を上げると、男性は、優しい表情ながらも、真剣な眼差しで瑠璃を見ていた。

「お見かけするたび、いつもどこかお辛そうな雰囲気でした。立ち入ったことを聞くつもりはありませんが、何か少しでも私に出来ることがあればと思っていました。ようやく少し笑顔が見られて、私も嬉しいです」

瑠璃は、驚きながらも胸を打たれた。

ここ最近の出来事が思い出される。

和樹との関係で悩んでいたこと、仕事の契約が切れるのを知らずにいて落ち込んだこと、そして夕べのことも…

(そうだ、私、辛かったんだ。誰にも相談出来ずに、一人で抱えてて…)

優しい言葉をかけられて、ようやく自分の気持ちに気づいた。

まるで、氷のように冷たく硬かった心が、暖かい太陽の光で溶かされたかのように、瑠璃の目からポタポタと涙が溢れ落ちた。

とめどなく溢れてくる涙をどうすることも出来ず、ただ静かに泣き続ける瑠璃を、そっと一生は見守っていた。
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