霊感御曹司と結婚する方法

異母兄弟 ー糾司視点ー

 時間はまちまちだが、あれから毎日、蒼子は顔を出してくれるようになった。洗濯物の交換や、備品の買出しも引き受けてくれた。今日は、欲しい物があったから頼んで、彼女はいつもより早めに帰った。

 彼女が出ていってから時間も立たないうちに、室内にまた彼女の気配がして、膝においたノートパソコンに視線を落としたまま言った。

「なんだ? 忘れ物か?」

 返事がない。

「どうした……?」

「誰と間違っているのかしら?」

 声を聞いて、背筋が凍りついた。母だった。母はズカズカと病室に入ってきた。

「あ、今日はどうかしましたか?」

「なに敬語になってんのかしら。ねえ、……この部屋にさっきまで誰かいたの?」

 母は俺の質問に答えない。病室を見回して、そして次はベッドの俺をジロジロと観察しだした。

「病人にしては、あなた、随分身ぎれいよね? なんかヒゲもキレイにそってあるし。寝巻きも、それ、洗濯したてじゃない? 本当に、吉田くんにずっとお世話してもらっているの? そんなわけないわよねえ?」

「あの、何がいいたいんですか?」

「一歌さんとのトラブルの詳細を聞きに来たのよ。そろそろいいでしょう?」

「お見舞いじゃなかったんですか?」

「それはついでよ。もう敬語はよして」

 そう言うと母は、持ってきた花を活けだした。

 しばらくあれこれいじっていたが、最終的にうまくできたらしく、満足げな笑顔を花瓶に向かって浮かべていた。俺はその間の沈黙の居心地が悪くて仕方がなかった。

 すぐに母の尋問が始まった。

「事件に巻き込まれたのは、あなたの会社の従業員の女性だって聞いたけど、恋人だったの?」

「いや、違う。ただの従業員」

「一歌さんは、あなたが女性と同棲していると知って、その女性を狙ったと聞いたわ。その従業員の女性と同棲しているの?」

「いや、俺の家に住んでもらっているだけ。彼女は恋人ではないので、一緒には住んではいない」

「恋人でもない女性を自分の家に住まわせているの? 意味がわからないわ。じゃあ、あなたは今どこに住んでいるの?」

「近くのホテルに」

「……ますます意味がわからないわ。その女性はエムテイにいた人だって敦司くんから聞いたけど、以前にあなたと付き合っていた女性ということなの?」

「なんでそうなるんだ? 彼女はエムテイの出身者だが、ずっと支社にいたから全く知らない」
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