霊感御曹司と結婚する方法

もう一人の真打ち ー糾司視点ー

──プロローグ

「この拳銃と弾丸で、自らの心臓を撃ち抜けば、離れたところにいる奥様もろとも、死ぬことができます」

「それでは、妻が本当に死んだかわからない」

「大丈夫です。魂が消えゆくまで猶予があります。その過程で必ずわかります。あなたが、本当に一時でも奥様を愛していて、奥様も同じ思いでいらしたことがあるなら、かならず、道連れにできます」

「……了解だ」

「ただ、苦しいですよ。普通に死ぬより、とても」

「……もし、妻が死ななければ?」

「ご自分の気持ちに自信がなければ、やめたほうがいいでしょうね? もちろん、引き返せません。あなたが死ぬことには、かわりありませんから」

「鬼が出るか、蛇が出るか……ということか。どのみち、何もわからないまま死んでも、自分への罰であることにはかわりないな」

「もちろん、あなたのご意志次第です」

「……君への報酬のことは、秘書に頼んでおく。一歌の所持する財産は全てを託す。手続き等は秘書を通じて相談するといい。弁護士を手配してくれるはずだ」

──俺の認識では、呪いや魔術は簡単にはかからない。

 術をかける者は、チャンスを伺う必要がある。時間をかけて、ターゲットを見定めて、そしてターゲットとなった者の弱みをうかがい知る必要がある。

 しかし、彼女は時間をかけずして、兄の心の闇を見抜いたのだろう。

 そして、誘惑した──。
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