霊感御曹司と結婚する方法
「母は、父の通訳を担当することになって、それで知り合ったらしい。母の年齢は、当時三十八歳で、結婚歴もなし。母は、もともと誰とも結婚する気はなかったんだと。

 というのも、母には軽い障害を持った病気の兄がいた。それに負い目があったというわけではないだろうが、自分の結婚には積極的にはなれなかったらしい。実家は小さな商店を営んでいて、貧しい上、生活上に何かと問題がある兄もいて、自分が稼がなくてはならないという気負いもあったらしい。

 一方の父は、前妻を亡くしたばかりで、また、難しい年頃の兄との関係に頭を悩ませていた頃だ。

 父はそういう中で母と出会って、仕事で母と関わる中で、母のことが、純粋に珍しかったのだろう。最初は母の事を、周りには見かけない、一風変わった女くらいにしか思っていなかったらしい。

 母は化粧もほとんどしていないし、着るものも質素な上、いつも同じだ。父は、一度、母を食事に誘ってそのことを率直に聞いてみたらしい。

 それで、母は自分に置かれた境遇と、仕事で稼いだ金は全て家族の生活費にまわしていると正直に答えて、それを聞いた父は驚いたらしい。まあ、それほど驚くことかとも思うけどな。でも、父にはショックなことだった。

 父も母も当時はがむしゃらに仕事をしていたが、父は妻が死んだ悲しみを紛らわせるため、悪化する息子との関係から逃げるためという後ろめたさもどこかにあった。一方の母は、ただ家族を支えるためという、切羽詰まってはいるが、わかりやすく純粋な動機だ。

 母の事情を知った父は、母との関係がどうこうという事はなくても、苦労性で風変わりに見える母を無意識にこころの拠り所にしていたのかもしれない。

 そういう中で、母の兄が亡くなってしまった。それは、障害のせいで悪化する自分の持病をコントロールできないことが重なっての結果だった。母は自分の兄をとても愛していたし、そのことに相当なショックを受けて仕事を辞めてしまった。

 驚いた父は、突然辞めた母を追って、理由を聞き出して、引き止めて、なかなか首を縦に振らない母に、ついには結婚を申し込んだということだ。

 母は兄がいなくなって、浮いた金を使って、心機一転、海外に行こうと計画していたらしかったけどな」

 私はその壮大な話を聞いて、悲しみを通り越して茫然としてしまった。

「……その話は?」

「誰にもしたことはない。母が、誰にも言うなというからな」

「二人の結婚はすんなりうまくいったんですよね?」

「そんなわけないだろう? 当然反対にあった。母は父方の親族にも罵られ……。だが、そういうのは、筋金入りの苦労性の母には効かなかっただろうな」
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