霊感御曹司と結婚する方法

広い河の岸辺

「三次会行かなくてよかったんですか? 私、一人で帰れましたよ?」

「いいんだ。どうせみんなすぐ帰るだろ。体力が持たなくて」

「久々に同級生の方たちと会ったんじゃなかったんですか?」

「君と帰りたいんだ。二次会まで付き合わせたからな」

「私はとても楽しかったです。いつもと違う吉田さんも見られたし、村岡さんもです」

「もう少し先の国道で車を拾おう。歩けるか?」

 二次会の会場からは、河辺の遊歩道に繋がっていて、そこを酔い醒ましに歩きたいと村岡さんが言った。

 少し前を歩く村岡さんはとても機嫌がよさそうだ。しばらくはあまりに忙しくて、彼でも少しピリピリしているときもあった。

 今日の村岡さんの披露宴会場での立ち振舞いの、只者じゃない感のオーラは半端なかったし、吉田さんの普段知ることのない人望の厚さにも触れた。

 彼らはこれからもっと忙しくなるだろう。充実した人生がさらに充実していくのだろう。そう思うと、今まで心に留めていた決心が自然とほどけた。

「村岡さん、話があります」

「何だ、改まって。今じゃないとダメか?」

「今がいいです。お時間はいただきません」

「じゃあ、ここで言えよ」

「私、近々村岡さんのお家を出ようかと思います。勝手なことを言っていますが」

 村岡さんは一瞬真顔になった。だけど、すぐいつもの飄々とした表情に戻って言った。

「そうか。そろそろ言い出すんじゃないかと思っていた」

「今日、私は吉田さんの覚悟を見た気がします。村岡さんへの忠誠と。わたしもこのままズルズルと村岡さんのご好意に甘えたままでは前に進むことができません」

「……そうだな。放ったらかしで悪かった」

「そんな意味じゃないです」

 私は、悲しい気持ちを堪えて続けた。

「一年前、私は自分でもわからないくらい病んでいました。私は一年をかけて、立ち直れたんです。それは間違いなく村岡さんのおかげです。何か恩返しがしたいって、その思いだけでグリーンでのお仕事もがんばってきたんですけど、それだって村岡さんの手中にいられたからできたことです」

「……ひとりで、そういうことを考えさせていたんだな。悪かったな」

 私は、事件のことは出すまいと決めていた。

「俺の部屋を出てから、どうする?」

「帰って、しばらくは実家にいようと思っています。両親にも既にそう言ってあります。お正月に帰った時に……」
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