一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました




同じ頃、すでに自分のデスクへ戻っていた部長は、繭の早退により引き継いだ仕事と自分の業務に追われている。

はずだった。



「…………。」



スマホも鞄も会社のデスクに置いて病院に向かってしまった繭の容体は、誰がどうやって自分に報告してくれるのか。

気が気でない部長は仕事が手につかず、キーボードに指は乗っているものの動く様子は全くない。


加えて、現在の冷静な状態で色々な出来事を振り返ってみると、不自然な事が多い気がした。

それは天川病院の医者がタイミングよく現れたことと、その時の繭と医者の反応。



「……普通、医者が患者のところにわざわざ車で職場までくるか?」



医者と患者の関係も、病院の外へ出てしまえば赤の他人なのに。

繭は驚いた様子で椿の名前を呟いていたし、椿も患者である繭を下の名前で呼び、許可も得ずに躊躇なく抱き抱え後部座席へと運んでいった。


二人はただの医者と患者、という関係だけではないような雰囲気を感じて、部長は首を傾げながら腕を組む。



「……まさか、あの医者が……?」



繭のお相手であり、お腹の子の父親か。


以前、繭より収入も住まいも良くしっかりした人だと教えてもらっていたし、性格や素性も申し分ないと言っていた。


そんな男と最近何かあったらしいと疑い始めていた部長だったので、それが読み通りであれば腹痛を訴えた時の繭が、天川病院に向かう事を一度は行きたくないと拒否したのも、納得がいく。


部長が知っている情報だけを集めると、天川病院に勤める天川椿という医者は、繭の恋人で間違いないだろうと結論を出した。



< 108 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop