一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました




「……あの、赤ちゃんは……無事、ですか?」



何が何でも守りたかった、お腹の中に宿る小さな宝物
自分の身勝手と不注意で危険にさらしてしまった、我が子の尊い命。


すると歯を食いしばりながらじっと見つめてくる繭の手を、椿がそっと両手で包み込んできた。



「……いるよ」
「……え……」
「ちゃんと、ここにいるよ」



そう言って繭の体に被さる布団の上から、お腹の位置に優しく手を置いた椿は、約束通りに繭とお腹の子を守ってくれた。

その事実を知るや否や、繭はただただ涙がとめどなくあふれ椿の顔がぼんやりして見えなくなる。



「っごめんなさ……赤ちゃ、危ない目に……」
「繭さん、もう……」
「ごめ……なさい……」



繭の子でもあり、椿の子でもある。

たとえ無事だったとしても、危険な目に遭わせてしまったのは確実に母体だった自分のせいだと責める。

母親としての自覚も足りず、椿にも迷惑ばかりかけていて、それが本当に申し訳ないと思った繭が、我が子と椿に対して何度も謝罪を繰り返すと。


椿の人差し指が、そっと繭の唇に触れて動きを封じた。



「追い詰めてしまったのは俺だから、謝るのも俺の方だよ」
「っ……」
「不安にさせて、独りにさせてごめん……繭さん」



繭の事だから、色々と考えを巡らせて自分から離れていったにしても、本当の繭が如何に繊細な人間かつ一人で抱え込む性質かを、最初に踏まえるべきだったと反省している椿。

そうしていれば、あんなに問題なく安定していたのに、突然切迫流産の危機にさらされる事なんてなかったのに。


繭に過度な疲労やストレスを与えてしまったのは自分であると、悔やんでも悔やみきれない椿が、繭の頭をそっと撫でた。



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