一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました




その時、病室の扉がコンコンと音を鳴らし、誰かの訪問を知らせるノックが響く。

繭と椿が視線を合わせたのち、病院のスタッフだろうと予想する椿が対応のために立ち上がった。



ガラッ


「はい」
「先生、ナースステーションにお見舞いにいらしてる方がいて」
「え?」
「里中さんの上司だと……」



ベッドの上で仰向けに寝ながらそんな会話が聞こえてきた繭は、その上司は部長で間違いないと思った時。



「大丈夫です、お通ししてください」
「わかりました」



昼間に初めて顔を合わせていた椿は、繭と同じく直ぐに部長だと理解して、面会の許可をスタッフに伝える。

すると、しばらくして通路を歩く足音が病室に入り、繭が会社のデスクに置いてきた通勤バッグを持った部長が姿を現した。



「里中!無事か!?」
「ご心配おかけしてすみません、部長のお陰で私も赤ちゃんも無事です」
「いや俺じゃねーだろ、この先生のお陰だろ」



ベッドで安静にする繭とようやく会話できた部長は、お腹の子の無事もわかり安堵の表情を浮かべると。
付き添うようにベッドの傍らに立つ、白衣姿の椿に視線を移した。



「助けていただき、本当にありがとうございます」
「いえ、当然の事をしたまでなので……」



部下の恩人である椿に、深々と頭を下げながら感謝の言葉を述べていた部長だったが。

一転、ゆらりと顔を上げると少し怒っている様子で、椿を睨んでいる。



「ところで先生は、里中とどういったご関係で?」
「……ちょ、部長!?いきなりどうしたんですか!?」
「返答によっては転院の手続きが必要になるかと、お前の為だぞ里中」



まるで保護者のように立ち振る舞う部長は、最近の繭の不調や落ち込み様は男が関係していると思い、それは椿だと確信していたから。

命の恩人ではあるが、それとこれとは話は別だと目で訴える部長に対し、繭と椿はそれぞれ反論を始める。



「部長誤解してます、この先生は私の」
「ご心配をおかけしました、繭さんは」


そして口を揃えてこう答えた。



「「フィアンセです」」



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