一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました




「立派なところだな……」
「ほんと素敵〜、私もここで挙げたかったわ」
「そんな金ねぇよっ」
「知ってるわよ」



チャペル内装を眺めながら会話するのは、椿の友人として挙式に招待されていた、学生時代の先輩であり繭の行きつけのバーのマスターと、その奥さん。

そして夫婦の間でやや緊張気味に大人しく座る、慣れないタキシードを着せられた三歳の愛息子も。



「パパ、ぼく、かえる……」
「え!?どうした(りく)?緊張してるのか?」
「こわい……」


普段訪れることのない大聖堂の迫力と聞き慣れない優雅なBGM。
そして周りに座っている見知らぬ大人達の存在は、三歳の子供にとって不思議な空間だった。


その気持ちを察したマスターの奥さんは、息子である陸の背中を優しく撫でながら語りかける。



「陸、もうすぐ後ろにある大きな扉から椿くんがくるのよ」
「つばき?」
「そうよ、そのあとはお姫様になった繭ちゃんもね」
「まゆちゃん!さきは?」
「咲ちゃん?あ〜、陸は咲ちゃんが大好きだもんね」
「うん!」



緊張していた陸の表情が少しずつ和らいでいき、同い年のお友達"咲"の名を口にした途端、笑顔が咲いた。



「……そういえば、咲ちゃんの姿が見えないわね?」
「椿たちと一緒にいるんじゃね?」



マスター夫婦の会話をよそに、息子の陸は咲に会える可能性があるというだけで心が強くなり、いつの間にか恐怖心が消え去っていた。



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