一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました
04.




"俺の子だよ"
"ずっと探してた、繭さんの事"



妊娠の事実を聞かされただけではなく、目の前に座り先程診察してもらった医者が、絶対に会ってはいけないと決めていたあの椿と同一人物だった。


更には椿自らルール違反して繭を探していたという話を聞き、思考回路が爆発して跡形もない繭は顔を両手で覆い隠す。



「(まってまって……まって……!?)」



妊娠、それも人生初にして最後の、遊びと称して一晩だけ関係を持った椿との子。
そしてその事実は医者という立場の椿本人に診断されていて、もう隠しようも無い。


ピクリとも動かない繭を心配して、向かいに座っていた椿が隣に移動すると、そっと肩に触れてきた。



「混乱させてごめん、俺も繭さんが来た時は驚いたし、誤診しないよう気を張ってたくらいだから」



その優しい声は二ヶ月前にバーで聞いた心地良さを思い出させて、胸が締め付けられる繭。


椿として確かめたい事も、先生として尋ねたい事もあるのに、目の前の人物に自分の全てを知られていると思うと、今は何も言い出せなかった。



「椿は下の名前で天川が苗字、だから繭さんはずっと俺の事下の名前で呼んでたんだ」
「…………」
「騙したつもりじゃなかったけど、天川ってネームプレート確認してホッとした繭さん見たら、何だか言い出せなくて」
「え……?」



そんな心も読まれていたのかと思わず顔を上げた繭は、ようやく椿と目を合わせると。
そこには診察中ずっと我慢していた笑顔を浮かべた椿が、視界に映り込んだ。

二ヶ月前と変わらないその表情に、複雑な気持ちを抱きながらも少しずつ状況を整理しようと、繭は深呼吸して話し始める。



「…………椿さん」
「ん?」
「どうして、私を探してたの……」



何故そんな事を言い出すんだろうと疑問に思う繭が戸惑いながらも問いかけると、椿は愛おしそうに繭の髪に触れ、そして優しく抱き締めた。



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