一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました




「少なくとも俺は本気で繭さんが好きだし、初めて会った時から忘れた日なんてない」
「え、椿さ……」
「だからもう遊びも勿論やめる、絶対俺に惚れさせるから仮面夫婦には絶対させない」



椿は前のめりになりながら今思っている気持ちをそのまま伝えると、その熱意に押された繭も頬を赤く染めて鼓動が鳴り止まない。

そこまで想ってもらうほどの事はしていないのに、どうしてこんなに一生懸命繋ぎ止めようとしてくれるのか、自分には勿体ない人を前に繭は悩み始めた。



「それに……負担を強いられるのは女性だから、軽々しく言えないのは重々承知してるけど」
「な……、何ですか?」
「繭さんが俺の子を宿してくれて凄く嬉しいから、どうしても二人で育てていきたいんだ……」



つまり今はまだ小さな小さなお腹の子の成長と誕生を望んでいる椿は、既に父親になる覚悟と決意が出来ていた。

一人で決めていくしかないと不安に駆られていた繭にとって、これほど心強い言葉を聞いてしまうと気持ちも大きく揺れて、また涙が溢れてくる。



「……ッズルいです、椿さん……」



本気で好きだと言ってきたり、子を宿した事を喜んでくれたり、二人で育てたいなんて。


一夜限りの相手のはずが、繭の人生にどんどん踏み込んで離してくれないから。

もう恋愛はしない、一人で生きていくんだと決めていたのに、椿と歩む人生の想像をしてしまいそうになる。



「わ……私は…………っっ!」
「!?っ繭さん!!」



連日の多忙や心労に続き、妊娠による悪阻症状や椿との予想外な再会も相まって、突然全身の力が抜けていく繭。

そのまま隣に座る椿へと倒れ込むと、肩で息をしながら意識朦朧とする中。


必死に自分の名前を呼ぶ椿の表情が見えたのを最後に、繭はふっと瞼を閉じた。



< 38 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop