一夜限りのお相手が溺愛先生へと変貌しました
誰にも本気になれず他人に理解されない遊び方ばかりしては、スパッと関係を切ってきた。
だけど今現在、自分の腕の中にすっぽり収まっているのは、ずっと探し求めていた気持ちにさせてくれる存在で。
愛しいという感情を椿の心の中に芽吹かせた、ただ一人の女性。
この感情をずっと大切にしていきたいし覚えておきたい、だから椿は断言できる。
「俺はもう繭さんしか見えてないんだ」
「……っ」
「恋は盲目って言うけど、そうなってしまうほどにもう夢中だよ」
そう言って繭の肩を大事そうにギュッと抱き締めた椿は、目を閉じて言葉で伝えきれない想いが届くようにと願いを込める。
「(椿さん……本当に、本気なんだ……)」
それほどまで自分を想ってくれている気持ちに、しっかりと向き合わなければ失礼だ。
椿の真剣な想いを改めて知った繭は、期待を持たせてはいけないとわかっていても、現時点の率直な気持ちは言葉にしたいと口を開く。
「……もう少しだけ、お待たせしてしまうかもしれませんが」
「え?」
「前向きに、考えたいと思います……結婚の件……」
恥じらいながら、ごにょごにょと小さく呟いた繭の声はしっかりと椿にも届いていて。
前向きに考えるという事は、少なからず自分への気持ちが"キライ"ではない事と、夫候補として認めてもらえたのだと理解し、ドクンと胸が大きく鳴った椿。
「ありがとう……今までの人生の中で一番嬉しいな」
「お、大袈裟ですよ、まずはお試し期間を設け」
「絶対繭さんに惚れてもらえるよう全力を注ぐから……」
「っ……」
背後にいる椿の表情は見えないけど、きっと目尻を垂らして少し幼く変化する笑顔を浮かべているんだろうなとすぐに予想できた。
そして伝わる温もりも鼓膜を震わせる優しい声も、繭の心に溶け込んでいき自然と力が抜けていく。
こんなふうに心身共に安心して誰かに預けられるのは、一体いつぶりだろうかと考えようとした繭だったが。
そんな間もなく徐々に瞼が重くなっていき、やがて完全に閉じられると初めて味わう心地良さに抱かれながら、深い眠りについた。